2 沙耶香さんが辞めた?
桐子は今夜もガールズバーに出勤している。まだ開店前で、テーブルの上を拭いたりして開店の準備をしていると同僚の杉田さんが話しかけてきた。
「ねえ、沙耶香さんが辞めたんだって。」
「えっ、本当?どうして?」
「最近桐山さんと沙耶香さんが2度にわたって激しい口論になってしまったことがあったでしょ?」
「あっ、私、その2回とも目撃しているわ。」
「そのことが関係しているかどうか不明だけど、2回目の口論の後すぐに辞めたらしいの。」
「へー、じゃ関係あるかもね。二人ともそれまではあんなに仲よかったのにね。」
桐子は杉田さんにうまく話を合わせつつも内心はうれしい自分に気がついた。これで桐山さんの最大の贔屓の女の子がいなくなったのだ。ということは、たまに指名してくれることもあった自分が彼のお気に入りになり、しょっちゅう指名されて楽しく話せる可能性が出てきたことになる。桐子は人知れずほくそ笑んだ。すると杉田がまた話を続けた。
「ところで今夜は体験入店の子がいるらしいの。あっ、今ママさんと話している子がそう。」
桐子はそんな新人なんて関係ないと思った。桐山さんはそんな未経験な子よりも、恐らく沙耶香さんの次に気に入っていたと思われる自分のことを指名してくれるに違いないと思っていたので気にもとめなかったが、杉田に促されてそちらを見ると、少し離れてはいるが、美形の感じがした。
開店時間が近づいてきた頃、その新人さんはお店の女の子たちに挨拶をしてまわっていた。
「体験入店の泉川真奈です。よろしくお願いします。」
お辞儀をして顔を上げた彼女の顔を初めて正面から見た時、桐子は驚愕した。彼女は女優の長澤まさみ似の超美人だったのだ。エクボもあり、笑顔がまぶしい。美人の沙耶香さんも負けるくらいの美女なのだ。桐子はややショックを受けたが、すぐに自分に言い聞かせた。
「この職場ではコミュニケーション力と経験がものを言うわ。どんなに美女でも、まだ体験入店だから、自分が向かないとわかったら去るだろうし、もし続いたとしても桐山さんが相手にするわけないわ。」