二代目のエカチェリーナ2世
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
日本が「人類最後の国」になってからというもの、世界中の文化と価値観が一気に押し寄せ、街には多国籍の匂いが満ちていた。
それは活気でもあり、混乱でもあり――そして、ときに“妙な発酵”を引き起こす。
例えば、ブルンヒルデ・フカイゼンのように。
■ブルンヒルデという存在
ブルンヒルデは、ドイツ系大富豪の令嬢であり、金髪碧眼、長身。
そして、宗教はプロテスタント。
それだけで、もう日本のメディア界隈では“面白い素材”になっていた。
というのも――日本に移り住んだ外国人たちが持ち込んだ「ポリコレ文化」が、
この国で奇妙に進化し、「謎の道徳菌」として増殖してしまったのだ。
その結果、
「金髪碧眼でプロテスタント → なんか怪しい」
「ドイツ人の娘 → 戦争絡みなんじゃ……」
「家が金持ち → どうせ“闇”があるはず」
という“無根拠の発酵”が広まり……。
メディアは、どこもかしこも、
ブルンヒルデに関する噂を面白がって撒き散らした。
「フカイゼン家の財産は、ナチス残党との闇取引で築かれた」
「彼女の宝石はブラッドダイヤモンドである」
「彼女の先祖が実は……」
全部デタラメである。
だが、ブルンヒルデがドイツ訛りで
「グーテンターク、みなさん」
と言うだけで、
“あっ、なんか本当っぽい!”
と誤解が爆発的に発酵するのだから、手に負えない。
■アデバヨ・アバラという男
ブルンヒルデの右腕であり、ボディーガード兼アシスタント。
ナイジェリア系の長身で引き締まった体。
無表情で仕事をこなす姿は、とてもクールだった。
彼の名前はアデバヨ・アバラ。
二人は実に自然な関係で仕事をし、
互いに信頼し合っていた。
そして数ヶ月前、ブルンヒルデは
堂々とこう公表した。
――「アデバヨと正式にお付き合いしています。」
しかし。
これがまた、メディア界隈の“発酵菌”を刺激してしまった。
「アデバヨはブルンヒルデの愛玩奴隷である」
「彼女は『珍しいペット』として彼を側に置いている」
「ロシア皇帝キャサリン大帝の“馬事件”の再来か!?」
……最後のは流石に意味が分からない。
だが、インターネットでは真顔で考察動画が作られ、
「ブルンヒルデ・アデバヨ事件の真実」
「国家を揺るがす“人間馬事件Ⅱ”」
といったタイトルがトレンド入りした。
ブルンヒルデは、噂を聞くたびに額に手を当てて嘆いた。
「わたしは、ただ恋人を公表しただけなのに……
なぜこうなるのですか、日本。」
アデバヨは静かに言う。
「……気にするな。人間は、情報が少ないと想像力で補う生き物だ。」
「その想像力が暴走しているのです!」
「うむ。それは発酵だ。」
「発酵!?」
「放っておくと、臭くなる。」
「だめじゃないですか!!」
アデバヨの淡々としたツッコミは、
ブルンヒルデの頭痛をさらに悪化させた。
■しかし、ブルンヒルデは笑う
そんな騒動の中でも、彼女はビジネスを着実にこなし、
チャックともプロとして信頼を築いていた。
ある日の会議の後。
ブルンヒルデはチャックに言った。
「噂というのは、本当に面倒な生き物ですね。」
チャックは肩をすくめて笑った。
「まあいいさ。誤解も文化も、全部発酵みたいなものだ。
時間が経てば、いずれ落ち着く。」
「落ち着きますかね……?」
「ああ。君の本質は、ちゃんと君を知る人間に伝わる。」
ブルンヒルデはゆっくりと息をつき、表情を和らげた。
「……そう信じたいですね。」
アデバヨは横から小さく言う。
「噂に踊る者は、放っておけ。
我々は、我々のままでいい。」
ブルンヒルデは吹き出した。
「ほんと、あなたは時々、哲学者みたいなことを言いますね!」
「いや、普通のことだ。」
「普通じゃないですよ!」
そのやり取りは、どこか温かくて、どこか滑稽だった。
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