鳥は自由にするともっときれいになる
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
チャックが商店街の危機を救ってから数日後。
昼下がりの長野は、冬の光が斜めに差し込み、屋台の湯気を金色に照らしていた。
ラウラ、ヒナタ、ワンユー、セリーナの四人は、いつものように休憩時間を共にしていた。
そこへ、スーツ姿のチャックが静かに歩み寄ってきた。
「みんなに大事な話がある。」
四人は顔を見合わせる。チャックは深呼吸し、丁寧に頭を下げた。
「どうか、我が屋敷でシェフとして働いてくれないだろうか。
待遇は最高にする。給料も、設備も、材料も、何一つ困らせない。」
その言葉に、四人は一瞬だけ驚いたような表情を見せた。
しかし次の瞬間、それぞれ穏やかに微笑んだ。
ラウラが口を開く。
「チャックさん……お気持ちは、とても嬉しいです。でも――」
ヒナタが続ける。
「私たち、料理を仕事としてだけ見てはいないんです。」
セリーナが静かに頷く。
「うちらが作る料理は、家族の文化そのもの。
なくしちゃいけないものなんです。」
そしてワンユーが、少し照れながら言葉を結んだ。
「もしお屋敷で働いたら、あなた一人にしか食べてもらえないでしょう?
でも私たちは、もっとたくさんの人に食べてもらいたいんです。
味の向こうにある“物語”を感じてもらうために。」
その説明を受けたチャックは、まるで講義を聞いた学生のように真剣に頷いた。
――料理とは、文化の微生物みたいなもの。
誰かが受け取らなければ、増えることも、息をすることもできない。
四人の信念を噛みしめながら、チャックは柔らかく微笑んだ。
「そうか……君たちが望むなら、私はそれを尊重する。
その代わり、これからは“後援者”として力にならせてくれ。」
「もちろんです!」と四人は声を揃えて答えた。
チャックは満足げに帽子を軽く持ち上げ、夕暮れに向かって歩き出す。
その途中、スマートフォンが振動した。
画面には――
「ブルンヒルデ・フカイゼン」
と表示されていた。
金髪の実業家。チャックと〈ルインズ・グループ〉の重要な協力者の一人である。
「……ああ、ブルンヒルデ。例の案件の件か?」
電話を取りながら、彼は商店街を振り返る。
屋台の煙が青空へ伸び、四人の笑い声が風に溶けていく。
その日を境に、チャックは四人の店に頻繁に通うようになった。
まるで文化の“発酵”を見守る研究者のように――。
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