守る
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
昼下がりの商業エリア。
ラウラ、ヒナタ、ワンユー、セリーナ、そしてアキヒロは、各自の屋台の裏に置かれた簡単なテーブルを囲み、束の間の休憩時間を過ごしていた。
ラウラがサルサを味見し、ヒナタはお茶を入れ、ワンユーは蒸し器の温度を気にし、セリーナはスパイスの瓶を振りながら談笑している。
その空気は、まるで家族のように温かかった――。
だが、その平穏を破る影がひとつ。
カツ、カツ、と自信に満ちた靴音を響かせながら、長身の男が現れた。
ランドィマー・デューク。
巨大開発企業「デューク・コーポレーション」の代表にして、
この商業エリアを丸ごと買い取ろうとしている張本人だった。
「やあ、仲良く集まっているね、レディたち。」
不敵な笑みを浮かべながら、ランドィマーはテーブルを見下ろす。
「いいよ、その友情。商売を失ってからも、君たちは支え合えるもんな。」
ラウラがムッと眉をひそめ、ワンユーが言葉を失い、セリーナは苦く舌打ちした。
ヒナタは静かにランドィマーを睨みつける。
アキヒロは彼女たちを庇うように一歩前へ出る。
「……そんな言い方、ないだろ。」
ランドィマーは肩をすくめた。
「事実を言っているだけさ。このエリアは近いうちにすべて再開発される。
君たちの屋台も、店も、全部消える。感傷に浸る時間があるなら――」
そのときだった。
低い声が割って入る。
「――そこまでだ。」
全員が振り返る。
チャック・シュイナールが立っていた。
スーツ姿のまま、冷たい瞳でランドィマーを見据える。
「ああ? 誰だお前は。」
「君こそ、ここで何をしている。ランドィマー・デューク。」
チャックは一歩前へ。
「今すぐ、この場から立ち去れ。」
ランドィマーは鼻で笑う。
「はぁ? 何を言っている。
このセクターは、もうほとんど“俺のもの”なんだよ。
立ち去るべきは――」
「違うな。」
チャックは淡々と、だが刃のように鋭く言い放った。
「ここはお前の所有地ではない。
――俺の所有地だ。」
空気が一瞬で凍りつく。
ランドィマーの顔色が変わった。
「……は? 馬鹿なことを言うな。そんな取引――」
「もう終わっている。」
チャックは淡々と続けた。
「デューク・コーポレーションの役員会が昨夜決定した。
この商業エリアの再開発権と土地一帯は、すべてシュイナール財団へ売却する、と。」
「嘘だ。そんなはず――」
「信じられないなら、電話してみろ。
お前の会社の、役員会議長にな。」
ランドィマーは震える手でスマホを取り出し、役員会議長へ通話を繋げた。
周囲は静まり返っている。
数十秒後。
ランドィマーの顔は、見る間に青ざめていった。
そして。
「……チッ。」
短く舌打ちすると、彼はスマホを乱暴にポケットへ押し込み、背を向けた。
「覚えてろよ……!」
そう捨て台詞を吐きながら、ランドィマーは悔しそうに去っていった。
残された屋台の仲間たちは、呆然としながらも胸をなでおろした。
チャックは彼女たちに向き直り、穏やかに言った。
「ここはもう安全だ。
君たちの店も、家族の味も――誰にも奪わせない。」
彼女たちは言葉を失ったまま、ただチャックを見つめていた。
アキヒロは小さく息をつき、心の底から安堵する。
――それは、小さな世界の、大きな転機だった。
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