すべてを見た者たち
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
チャック・シュイナールは、サイタマに住む若き億万長者である。
人類最後の生存者たちが日本に避難してきたその頃、チャックの父、デレック・シュイナールは、自身の莫大な財産のほとんどを投じ、人類の再建に尽力した。
その資金援助により、「ルインズ」と呼ばれる世界最高の科学者集団は、人類の生存に必要不可欠な技術を次々と開発した。
最初の発明は、超高効率の人工チェルノーゼム――日本の農業生産力を千倍にまで引き上げる、奇跡の土壌であった。
さらに、自律型農業ロボットによる広域テラス造成が行われ、日本列島の約70%が耕作地へと姿を変えた。
これらの技術は大成功を収め、日本人と世界中の難民たちを飢えから救った。
そして、出資者たちは――チャックの父・デレックも含め――投資の数倍以上の利益を得ることになった。
人々は、デレックを「人類の恩人」と称えた。
――しかし、チャックは父とは違った。
彼は幼少期から病弱で、存在感も弱く、人々から「父の跡を継げるわけがない」と囁かれていた。
だが、チャックはその声を覆した。
父亡き後、彼は企業を見事に継承し、業績を拡大させ、彼自身の力で「シュイナール」の名を守ったのである。
* * *
その日、チャックは埼玉の豪邸から車でオフィスへ向かっていた。
しかし――道中、突如として武装集団に襲撃される。
運転手は即座に射殺され、チャックは拉致された。
車内に押し込まれ、手足を縛られたチャックの目の前に現れたのは、ただの犯罪者ではなかった。
その顔立ち、動き、装備――全てが「プロ」だった。
「……まさか、お前ら……元・特別遠征部隊『DAVID』か……?」
彼らは、地球外生命体・クラフティヒに対抗するために国外へ出撃する、特殊任務を担っていた精鋭部隊。しかし、今はすでに解散し、多くの隊員は行方不明となっていた。
リーダー格の男が、チャックを睨みつける。
「“ルインズ”の新しい研究計画について、話せ。」
「し、知らない……! 俺は人類のために資金を出しているだけだ……彼らのプロジェクトの詳細なんて……!」
「ハッ、人類のためだと? それを“人類のため”だと思ってるのか?」
男の目が、冷酷に光る。
「お前は何も知らない……ルインズが何をしているのか、本当に分かっているのか……?」
彼は銃口をチャックの額に押し当てた。
「――黙って死ね。」
その瞬間だった。
***
ドォンッ!!
凄まじい轟音とともに、建物全体が揺れる。
照明が落ち、室内が闇に包まれた。
「な、なんだ……!?」
「敵襲か!?」
次の瞬間、影の中から現れた“何か”が、兵士たちを次々と闇に引きずり込んでいく。
銃声、悲鳴、血飛沫――それらが一瞬のうちに交錯し、全てが静寂に変わった。
チャックはその混乱の中、必死に縄をほどき、逃げ出す。
震える足で、血の匂いの中を走り、走り、――ついに、彼は闇の中から脱出する。
命からがら、チャックは息を切らしながら、空を見上げた。
そこには、曇り空と、そして確かな“違和感”が漂っていた。
(……ルインズ……お前たちは、いったい――)
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