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笑顔になれる世界

これはこの物語の最終回です。皆さんが楽しんでくれたら嬉しいです。

光がほどけるように、新しい世界が開いた。


アキヒロとノムヴラは、新しい並行宇宙に立っていた。

空は高く、雲はゆっくり流れ、地平線の果てまで草原が続いている。

都市も、建物も、境界もない。

ただ、風と、草の音だけがあった。


アキヒロは、ふと立ち尽くす。


――思い出す。


まだ二人が幼かった頃。

夜中、アキヒロが両親の死の夢を見て泣き叫ぶと、

ノムヴラは優しくに、ただ隣に座っていた。


「だいじょうぶ」


そう言って、

小さな手で、彼の背中をゆっくり叩いてくれた。


理由も、意味もなかった。

それだけで、世界は少し静かになった。


……現在に戻る。


腕の中で、ノムヴラが小さく身じろぎする。

まぶたが震え、ゆっくりと開いた。


「……ここは……?」


ノムヴラは起き上がり、草原を見渡す。

その瞳には、もう迷いはなかった。


彼女は、ずっと気づいていた。

自分の中に、知らない記憶があることを。


けれど彼女は、それに耳を塞いできた。

記憶ではなく、今の自分として生きたかった。


――それでも。


ミマロの兵士たちに攫われた瞬間、

封じていたものが、すべて戻ってきた。


南アフリカの秘密基地。

白い部屋。

防御装置。

自分が「装置の中心」として造られた理由。


ヤコブ=ダビデ防衛システム。

世界を守るために、眠り続けなければならない存在。


すべてを、思い出していた。


ノムヴラは、アキヒロを見る。


彼は、泣いていた。

声を殺し、子どものように。


「……アキヒロ」


ノムヴラは、静かに尋ねる。


「みんなは……?

ここは、どこなの?」


アキヒロは、答えなかった。

答えられなかった。


けれど、やがて、絞り出すように言った。


「……俺が、選んだ」


涙が頬を伝う。


「ノムヴラを救うために……

地球を、犠牲にした」


言葉が、空気に落ちる。


「みんなを……

世界を……」


息が詰まる。


「君のために、捨てた」


それが、どれほど残酷な告白か、

アキヒロ自身が一番わかっていた。


彼女が、傷つくことも。

彼女が、憎むかもしれないことも。


それでも。


「……それでも俺は」


顔を上げずに、続ける。


「君が生きている世界を選んだ」


長い沈黙。


風が草を揺らす。


ノムヴラは、何も言わなかった。

ただ、一歩近づく。


そして、アキヒロを抱きしめた。


強くもなく、弱くもなく。

ただ、確かに。


アキヒロの身体が、わずかに震える。


二人は、何も言わずに抱き合う。


正解はない。

救いも、赦しも、ここにはない。


それでも――

二人がここにいる。


それだけが、事実だった。


草原の上で、

新しい世界は、静かに呼吸を始めていた。


――終わり。

この最終回を楽しんでくれたら嬉しいです。最初からこの物語を見守ってくれた皆さんに感謝します。皆さんのおかげで、作家になるという私の夢は実現可能だと信じさせてくれました。本当に感謝しています。この物語が気に入っていただけたら、ぜひ他の物語も応援してください。

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