ヒュドラーの頭の 1 つが洞窟に引っかかった場合、ヒュドラーはそれを切り落とします
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
アキヒロは、東京大学のキャンパスに立っていた。
ノムヴラの図書館での勤務は、まだ終わらない。
時間は、少しだけ余っていた。
「……少し、歩こうかな」
広い構内。
学生の声。
風に揺れる木々。
すべてが、平穏に見えた。
ふと、視線の先に講義室が見えた。
――みまろ先生)。
あの教授だ。
アキヒロは、なんとなく足を止めた。
教室の後方から、授業の様子を覗く。
難解な数式。
板書。
学生たちの静かな呼吸。
授業の終わりが近づく。
そのときだった。
数人の学生が、無言で席を立つ。
全員、医療用マスクを着けている。
彼らは、自分の机の上に紙を置いた。
数式。
記号。
アキヒロには意味が分からないが、
ただ一文だけ、どれも同じだった。
「どうやって、これを解けばいいのか?」
教授は、それを当然のように回収する。
違和感。
学生たちが去ったあと、
一冊のノートが机に残されていた。
アキヒロは、思わず手に取る。
中身は――
経済学。
市場。
資本。
投資。
「……理系じゃ、ない」
別の授業のノートだ。
忘れ物だ。
アキヒロは、ノートを持って外へ出た。
キャンパスの出口。
そこに、彼らがいた。
マスクを外した瞬間、
アキヒロは息を呑んだ。
――見覚えがある。
レストランの前。
テレビのニュース。
ルインズの理事たち。
なぜ、こんな男たちが、
学生のふりをして、
みまろの授業に?
その瞬間、彼らも気づいた。
目が合う。
沈黙。
次の瞬間――
走った。
「待て!」
アキヒロは追った。
人混みを抜け、
角を曲がり、
路地へ。
一人を、捕まえた。
「なぜだ!」
「なぜ、教授の授業に……!」
男は、震えていた。
「離してくれ……」
「お願いだ……言えない……」
「言えないって、何を――」
男は、叫んだ。
「言ったら、殺される!!」
乾いた音。
――バン
。
男の頭が、崩れ落ちた。
血。
倒れる身体。
屋根の上。
一瞬だけ、
銃を構えた影。
そして、消えた。
「……!」
アキヒロは追おうとしたが、
もう、誰もいなかった。
その夜。
ニュースは、淡々と伝えた。
ルインズ理事の一人、
ルネ・レクラウム氏は、
強盗に遭い、命を落としました。
強盗。
アキヒロは、テレビを見つめる。
違う。
あれは、
そんな単純なものじゃない。
誰かが、
口を封じた。
アキヒロの胸に、
冷たい何かが広がっていった。
「……始まってる」
何かが。
彼は、まだ知らない。
だが、
もう、引き返せないところまで、
足を踏み入れていた。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




