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巫女の予感

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

ここ数週間、週末になると自然に集まるようになった。

アキヒロ、ノムヴラ、チャック、ブルンヒルデ、そしてワン・ユーやヒナタたち。

場所は決まって、ワン・ユーや他の店のどこかだった。


テーブルの上には、国も文化も関係なく料理が並ぶ。

湯気、油の匂い、香辛料。

人類が「日本に集まってしまった世界」そのものみたいな光景だ。


「いやあ、今日のこれは当たりだな」

チャックは笑いながら箸を動かしていた。


彼は以前よりも少しだけ静かになった。

あの事件――

反ルインズを名乗る兵士たちに拉致され、「ルインズの罪」を理由に命を奪われかけてからだ。


ブルンヒルデは、隣で彼の様子をさりげなく見ている。


「……まだ、調べてるの?」


チャックは一瞬だけ箸を止めた。


「ああ。少しな」


彼は声を潜めるようにして続ける。


「俺も、他のスポンサーたちもさ。

正直に言うと……ルインズのこと、ほとんど何も知らない」


ブルンヒルデは驚いた顔をしなかった。

むしろ、どこか納得したようにうなずいた。


「技術だけ、よね」

「そうだ。

人類を生かすための発明。

シェルター、エネルギー、インフラ……

結果だけが提示されて、過程は誰も知らない」


チャックはグラスを見つめながら言った。


「親父は、ルインズの最初期に金を出した一人だ。

でも当時はさ……クラフティヒが現れて、世界が崩れた直後だった」


彼は小さく笑う。


「そんな状況で、

“その組織は正しいのか?”なんて疑う余裕、なかったんだ」


そして、ふとこんな例えを口にした。


「洪水の中でノアの箱舟に乗せられた動物が、

“操縦方法は正しいのか?”って聞くようなもんだよ」


ブルンヒルデは苦笑した。


「生き延びることが、最優先だった」


「そう。

でもな……」


チャックは、拳を軽く握った。


「それでも、俺は気になってる。

だって、ほぼ殺されかけたんだ。

“知らない何か”のせいで」


ブルンヒルデは、少しだけ間を置いてから言った。


「……調べる価値はあるわ」

「うん。君がそう言ってくれるなら、なおさらだ」


二人の会話は、周囲のざわめきに溶けていった。

誰も、深刻な空気に気づいていない。


その時だった。


ノムヴラが、箸を置いた。


誰も呼んでいないのに、

彼女はゆっくりと顔を上げる。


目は開いている。

だが、どこも見ていない。


「……来ようとしている」


声は小さく、平坦だった。

怒りも恐怖もない。


アキヒロは、背中に冷たいものを感じた。


「ノムヴラ?」


彼女は続ける。


「……ヴォイド……」

「……ヴォイド……」


言葉は、誰に向けられているのか分からない。


「防衛システム……ヤコブ・ダビデ……」

「……起動の時が……近い……」


それだけ言うと、

ノムヴラはふっと力を抜き、元の姿勢に戻った。


「……え?」


彼女自身が、きょとんとした顔をしている。


「今……私、何か言った?」


アキヒロは、言葉を失ったまま首を横に振った。


「……いや、何でもない」


テーブルの上では、料理がまだ温かい。

人々は笑っている。

世界は、何事もなかったように回っている。


だが、アキヒロの耳には、

彼女の言葉だけが、いつまでも残っていた。


――彼が、来ようとしている。


その「彼」が誰なのか、

この時、まだ誰も知らなかった。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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