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記憶という暗い海

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

夕方後の店内には、昼間の喧騒の名残だけが残っていた。

テーブルの上には、まだ温もりの残る皿と、乾ききらない水滴。


秋広は、ローラ、日向、王玉、セレナと一緒に、黙々とテーブルを拭いていた。

誰かが指示を出すわけでもなく、自然と役割が分かれていく。


皿が重なる音。

布巾を絞る音。

油と香辛料が混ざった、どこか安心する匂い。


「……ふぅ」


気がつくと、秋広は椅子に腰を下ろしていた。

ほんの一瞬、目を閉じただけのつもりだった。


しかし――


暗い。


どこかわからない。

音だけがある。


エンジン音。

タイヤがアスファルトを削る音。


「……やだ」


幼い声。

自分の声だ。


秋広は、四歳だった。


後部座席。

足が床に届かない。

揺れる景色。


前の席には、父の背中。

ハンドルを握る手。

少し疲れた肩。


「まだ遊園地で遊びたかった……」


声が震える。

目が熱くなる。


「ねえ、もう少しだけ……」


「秋広、今日はもう遅いんだ」


父の声は優しい。

疲れているのに、怒っていない。


「明日もあるだろう?」


「やだ!」


足が動く。

力いっぱい、前の座席を蹴る。


ドン。

ドン。


「秋広、危ない――」


一瞬。


ほんの一瞬、視線が逸れた。


白い光。

金属の悲鳴。

衝撃。


世界が裏返る。


――――――


目を覚ますと、天井があった。


白い。

眩しい。


体が動かない。


「……おとう、さん……?」


声が出ない。

喉がひどく痛む。


白衣の男。

低い声。


「……ご両親は……」


言葉が、頭に入ってこない。


「……亡くなりました」


その瞬間、

何かが壊れた。


息ができない。

胸が裂ける。


「いやだ」


「いやだいやだいやだ!」


叫ぶ。

泣く。

泣き続ける。


自分の声が、自分のものじゃない。


「ぼくの、せいだ……」


視界が滲む。

意識が、落ちる。

あの悲劇的な日以来、アキヒロは二度と自分の考えや感情、欲望を口にしてはいけないと信じてきた。あの悲劇的な日に起こったことのせいで、自分には幸せになる権利がないとアキヒロは信じている。


「秋広くん!」


肩を揺すられる感覚。


「……っ!」


秋広は、はっと目を開いた。


目の前には、心配そうに覗き込む日向の顔。


「大丈夫? うなされてたよ」


秋広は、数秒、言葉を探した。

そして、いつものように微笑んだ。


「うん。平気」


少しだけ、声がかすれる。


「昔の夢だよ。古い悪夢」


日向は、それ以上踏み込まなかった。

ただ、そっと頷く。


「そっか。無理しないでね」


そのやり取りの間にも、店の空気は動き続けていた。


「いらっしゃいませー!」


鈴の音と共に、扉が開く。


入ってきたのは、背筋の伸びた若い男と、二人の爆乳女性。


「三名様ですね?」


セレナが自然な笑顔で迎える。


男の名は、エミリアーノ・トーレス。彼はブルンヒルデの会社で働いていたビジネスマンでした。チャックが彼女たちのレストランのスポンサーになり、知り合いに勧めて以来、多くのビジネスマンが定期的にそれらのレストランに来るようになりました。

彼の右には、落ち着いた雰囲気のリズベス・ゴメス。

左には、少しだけ挑戦的な視線を向けるルビ・ゴメス。


三人は席につき、メニューを開く。


「ここ、匂いがいいわね」



そんな言葉が、空気に溶けていく。


厨房では、火が入る音。

香草が刻まれる音。

油が跳ねる音。


世界は、何事もなかったかのように回っている。


秋広は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


――何も言わない。

――何も望まない。


それが、自分の役目だと、

あの日から、ずっと信じていた。


静かな店内に、料理の香りが広がっていく。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。

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