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その男は自分を錬金術師だと思っている

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

エリオット・ヴァン・デル・クローテという男は、

生まれながらにして「異文化と混ざらない家族」を与えられていた。


彼の父は、南アフリカ出身の大富豪だった。

オランダ系の血を引き、金と土地と権威を持ち、

そして――時代遅れの分離主義的な価値観を、疑いもせずに信じていた。


「人は、混ざるべきではない」


それが父の口癖だった。


だが世界は、父の信念などお構いなしに壊れた。


クラフティヒの襲来によって、全部の国は荒廃し、

生き残った人類は、なだれ込むように日本へと集まった。


エリオットもまた、

巨大な資産と共に、父に連れられて日本へ来た一人だった。


日本での生活は、父にとっては「屈辱」だった。


屋敷にこもり、

家庭教師を雇い、

外界と距離を置く。


「余計なものに触れるな」


それが父の教育方針だった。


だが、エリオットは素直な子供ではなかった。


家庭教師の目を盗み、

裏口から抜け出し、

広い屋敷の外へと足を運んだ。


そこには、父の知らない世界があった。


街には、

見たことのない言葉、

聞いたことのない訛り、

嗅いだことのない匂いが満ちていた。


特に、エリオットが惹かれたのは――食だった。


中東の香辛料。

アフリカの煮込み。

ヨーロッパの焼き菓子。

アジアの発酵食品。


そして、彼が最も心を奪われたのは、

「融合」を売りにする小さな店だった。


例えば、


和風だしにスパイスを混ぜたスープ。

パンに味噌を塗った奇妙な料理。

誰の伝統か分からない、けれど妙に美味い一皿。


「……すげぇ」


幼いエリオットは、目を輝かせた。


違うもの同士が、

ぶつかり合い、

壊れず、

むしろ強くなっている。


その光景は、

彼の中に、はっきりとした確信を植え付けた。


――混ざったほうが、面白い。


その考えは、やがて人へと向かった。


文化。

言語。

価値観。

生き方。


「均質は退屈だ」


それが、成長したエリオットの信条になった。


彼にとって、人間関係は少しだけ――

積み木やパズルに似ていた。


形の違うものを、

あえて不揃いに組み合わせる。


すると、思いがけず安定したり、

予想外に美しい形になったりする。


「人は玩具だ」


エリオットは、そう考えている自分を、特に恥じてもいなかった。


アデバヨを見つけたのも、そんな視点からだった。


東京大学で目立つ、優秀な学生。

真面目で、誠実で、少し堅い。


「いい素材だ」


そう思った。


そして、

彼の脳裏に浮かんだのが、ブルンヒルデだった。


価値観も、育ちも、文化も違う。

けれど、どこか似た“芯”を持つ二人。


「混ぜたら、面白い」


エリオットは、迷わなかった。


紹介し、

場を作り、

少し背中を押した。


結果は――成功。


今や二人は、正式な恋人同士だ。


エリオットは、それを遠くから眺めて満足していた。


「ほらね」


誰にともなく、そう呟く。


混ざることで、

人は新しい形になる。


それは、料理と同じだ。


そしてエリオットは今日もまた、

次はどの組み合わせが面白いかを考えている。


まるで世界全体を、

巨大な実験室のように見つめながら。


――彼自身が、

もっとも“混ざった存在”であることに、

気づかないまま。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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