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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第1章
9/88

3話③

敵襲。


 外は既に慌ただしい。

 逃げ惑う人がほとんどだ。

 5人は、勢いよく庭に飛び出した。



 そこにいたのは――



「!? ……トラ?」

「生で初めて見ました……」

 環奈が逃げ腰になりながら言う。



 置いてあった花瓶や植木鉢は割れ、粉々になっていた。トラは地面の石や枝をくわえては投げ、咆哮し暴れまわる。

 桔梗がいち早く気が付いた。

「あれを!」


 トラの背中に術符が貼ってあるのが見えた。しっかりとは確認できないが、サルの時と同じ紋様に違いない。

 もう夕方も終盤、あたりが段々と暗くなってきている。トラの目がギラッと光り、こちらを向いた。



「お前はここにいろ」

 龍臣は一乃に言う。

「でも……」

「出て来ても仕方がない。お前になにが出来るんだ?」

「……」



 龍臣たちが暴れまわるトラの近くへ移動する。距離を置きながら周囲に立った。

 抜いた刀の光に反応したのか、トラが真っ先に環奈に飛び掛かる。

「!!」



 五宮がすかさず前に立ち、攻撃を弾いた。

「おう、大丈夫か?」

「五宮様! ありがとうございます!」

「やっかいだな。こうも暴れまわると……」

「どうしますか?」

「最終的には……全員で封印してしまったほうがいい。環奈ちゃんはあれか? 術は組めるのか?」

「高度なもの以外でしたら」

「おう、それでいい。あのトラ囲ってこの土地に封印する」

「そうしてしまうと……」

「ああ、この土地に限りなく負荷がかかっちまうな。最悪「星の宮」が終わる」

「!!」


 環奈がトラを見た。龍臣・桔梗と交戦している。さすが二宮家の2人。武術に精通しており、トラに隙を与えない。

 龍臣がトラの爪を刀で弾くと、桔梗がトラの首元に蹴りを入れる。

 トラは飛び上がり、地面に着地すると同時に2人目掛けて飛び込み腕を振るいあげた。

 龍臣が舞を踊るかのようにヒラリとかわす。トラはそのまま塀の壁に突っ込んだ。



「桔梗、このままでは埒が明かないぞ」

「そうですね……」

 トラがむくりと立ち上がり、こちらに向き直る。なにも怯んでいない。

「恐ろしい体力です」



 そんな様子を、少し離れているところから眺める一乃。

 お前になにが出来る?――本当にその通りだ。昔からずっと、そう言われてきた。

 優しく接してくれる人もみな、そう思ってる。無能だと。無力だと。


 先生がいなくなってから、生活が一変した。家も無い。家族もいない。



 自分は――




 空は西が橙色に染まり、反対側は紫色に変わってきた。

 どんどんと暗くなる。

 辺りにはもう人はいない。みな、もう逃げたのか、応援を呼びに行ったのか。

 一乃がトラを真っ直ぐ見る。胸の前で握っていた手を、もう一度、強く握りしめた。



「日が落ちる」



 突如、トラの周りに大量の白い花びらが出現した。


「!!」

「なっ!」


 白い花びらはトラを取り囲む。トラはあまりに突然のことで、挙動不審になった。周りが見えずもがく。

 4人の周りも白い花びらが囲う。


「な、んにも見えない!」

「環奈ちゃん! こっちだ」

 朝晴が環奈の手を引っ張った。



「なんだ……これは? 桔梗無事か?」

「はい、ここにおります」



 花びらがグルグルと、トラの周りを舞い続ける。周りに砂煙が舞うほど、風が強い。

 花びらの塊が動き出した。

 ゆっくりと、建物の方へ動いていく。


「どこに行くんだ?」

 龍臣が進もうとするが、花びらで止められてしまう。



 少しずつ、少しずつ動いていくその先に、立っている一乃。

「一宮!」

 動かない一乃。長い髪が風に舞う。

 近づいてくる花びらを纏ったトラ。もはや、トラにも見えない。



 トラが一乃の前で止まる。ゆっくり傾いたかと思うと、そのまま横に倒れた。

 花びらが風に舞って、頭上へと消えていく。

 見る見るうちに、花びらは消えていき、残ったのは地面に丸まっている小さなトラ。



「え? あれ?」

 風が止み、環奈たちがトラに近づいてきた。


 子トラが地面で丸まっている。

 スースーと寝息が聞こえてきた。





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