5話 星の宮
久しぶりだ。
2人きりで話すのは。
廊下に座り、庭を眺めているのは一乃と照星。
今日は天気がいい。
庭の木が桜色に染まっている。
照星が一乃に聞いた。
「一乃、もう体は大丈夫なのか?」
「はい」
「……仕事の方は? 大変じゃないか?」
「大丈夫です」
「夜……たまに部屋にいるって聞いたぞ?」
「"見ている"ではなくて?」
「そ……」
「あの部屋にいると、落ち着くんです」
「……」
「あまり無理をするなよ」
「照星さんも」
「無理しないでください」
「ずっと、ずっと、忙しそうです」
「……」
寂しい思いをさせてしまっていただろうか。
来たばかりの頃は、自分と環奈以外、知り合いはいなかったはずだ。
「……そうだな、休みでも取るか」
照星が一乃を見る。
「次の休み、一緒に散歩に行くか」
「? お散歩ですか?」
「ああ、歩いた所に団子屋があっただろう。そこに行こう」
「はい」
そういえばと思いついたように照星が一乃に聞く。
「……一乃、お前、外歩いた事あるか?」
「あります。任務で……」
「いや、私生活で」
「…………ありません」
「だよな」
「じゃあ、いい社会勉強だ。一緒に行こう。……桜が散る前にでも行くか」
「……」
「嫌か?」
「いいえ」
「楽しみです」
「照星さんとお散歩するの」
ニコリとも笑わず真面目な顔をして一乃が言う。
その様子に笑いが込み上げてきた。
「……ははは」
「?」
「そうか」
照星が一乃の頭を撫でた。
―――
ここは一宮の仕事部屋。
一乃は自身の仕事机に向かい、筆を執っている。
一乃の向かい側の椅子に座るのは、いつも通り、龍臣と朝晴。
明蘭と凪は、扉側と窓側にある長椅子にそれぞれ腰を下ろしていた。
「別に一乃が報告書を書かなくても、全員で書くぞ?」
龍臣が足を組みながら言う。
「……まだ、私は書いたことがないので……」
今回の鬼が出現した出来事について報告書を書いているらしい。
龍臣と朝晴に教えてもらっていた。
「一乃ちゃんは真面目だなぁ」
「そこは挿絵でも描いておいた方が分かりやすいぞ」
「さ、さしえ?」
「一乃ちゃん、絵は描ける?」
「絵は……」
長椅子に座っている明蘭が手を挙げる。
「私が描くわ。こう見えて得意よ」
「ここの文字は漢字に直して……ここは送り仮名が……」
「むむむ……」
「二宮は厳しいな」
真剣な顔で報告書に向かう一乃。
龍臣は絶好の先生のようだ。
隣で朝晴が笑いながら辞典をハラハラめくる。
「……一宮、俺が最後に読んで確認するから。完璧なものを作らなくても大丈夫だよ」
凪が優しく言った。
一乃がハッと気づく。
「……結局、みなさんと作ってます」
「まぁまぁ」
「そういうもんだ」
「ええなぁ、仲良しやね」
部屋の隅で、こちらを見ていた奈取。
ひょこっと出てきた。
「なんだよ」
「別に用はないで? 俺はこれから仕事やし」
「仕事?」
みんなで奈取の方を向く。
「せやねん、聞いてや? 椎名照星んとこの書庫で本棚整理せなあかんねん」
「いややわ~。あそこ、めっっっちゃ薄暗いねん。出るで?」
「やかましいな、仕事だろ」
「二宮はん、冷たいわ~」
「奈取さん」
「頑張ってください」
一乃に言われて、奈取が笑った。
「そうやね。ちゃっちゃっと仕事、終わらせて来るわ」
「ほな~~」
と言いながら、足早に部屋からいなくなっていった。
「本当に一宮に入ったのね」
明蘭が、奈取が出て行った扉を見ながら意外そうに言う。
「それを言うなら、夜月は四宮に入っただろう」
龍臣が言った。
「そうだけど。あれは彼女の意思よ?」
「兄のところは嫌だったんだな」
朝晴を見ながら、龍臣が言った。
「うるさいな」




