4話⑤
凪が右手を頭上に上げている。
その右手の上には大きな球体が生まれた。
クルクルと回りながら形作られていく。
金色の、
凪の体の3倍はありそうな、大きな鈴が出来た。
「行きますよ」
環奈が姿勢を低くする。
持っていた刀を投げ、鈴の目の前の地面に突き刺した。
環奈が走る。
飛び上がり、地面に刺さっている刀の鍔に足をかける。
勢いよく上へ飛び出した。
空中で体を器用に回す。
右足で踵から鈴を思いっきり蹴りつけた。
「!」
空気が揺れる。
音は聞こえないが、鬼には届いたらしい。
こちらに体の正面を向け、ずんずんと進んでくる。
体が大きい分1歩が大きい。
すぐに「星の宮」の敷地へとやって来た。
塀がバリバリと崩れる。
「星の宮」の結界が湾曲して押しつぶされていく。
「……」
「一宮……大丈夫?」
凪が庭の反対方向にいる一乃に聞いた。
「……はい」
一乃が頷く。
「行きます」
5人が鬼を取り囲んだ。
一乃から右回りで、龍臣、凪、明蘭、朝晴が並ぶ。
各々が前に手を出した。
一乃が一度、両手を叩く。
地面に光の線が生まれる。
5人を結び、
星の形になる。
「初めてやるけど……本当に開くのか?」
朝晴の疑問の声を上げる。
「分からない……俺も初めて見る……」
凪も心配そうに言った。
「やるしかないだろう」
龍臣が半分やけくそに言う。
「大丈夫よ。私たちだもの」
明蘭が笑って言った。
「はい、大丈夫です」
一乃が鬼を見た。
爆発的な力が生まれる。
日没だ。
雲に覆われた空が一層暗くなる。
「開きます。冥界の扉――」
星の真ん中の地面に刺さった環奈の刀が光る。
地面が黒くポッカリと穴が開く。
覗き込むとキラキラした星のような光が無数に見えた。
ズズズ……と鬼が足元から沈み始める。
「……っ、重い」
「耐えろ」
鬼が暴れる。
その度に、重力がかかる。
「……」
ふわふわと5人の目の前になにかが落ちてくる。
「?」
白い花びらが何処からか何枚も、何枚も落ちてきた。
風に乗り、鬼の周りを舞う。
鬼が白い花びらを見た。
動きが止まる。
花びらはどんどん増えていく。
鬼を完全に覆った。
白い大きな塊のようになる。
動きを止めたまま、
静かに、
地面の中へと、落ちていった。
5人を結んでいた光の線が消える。
鬼が先程までいたところには、環奈の刀が地面に刺さっているだけだった。
「終わったのか?」
龍臣が口を開いた。
「……ぽいね」
凪が言った。
「あとは……」
一乃が空を見た。
雲はもうない。
夜空に星が瞬いているのが見える。
紫色の空の向こうに、無数の黒い点が見えた。
段々と大きくなっているのが分かる。
「あれか」
朝晴が空を見て言った。
「結界があっても厳しそうだね」
凪が言う。
鬼が通った箇所の結界が歪んだままだ。
「私がやります」
一乃が前に出た。
「一宮、あまり無理しちゃ……」
凪が心配そうに言う。
「大丈夫です……無理はしないです」
一乃が続ける。
「……でも」
「?」
「よく分からないんですが……」
一乃が拳を胸の前でギュッと握る。
「たぶん、腹が立ってます」
「え?」
「……」
「ん?」
「一乃ちゃん、怒ってるの?」
朝晴が聞いた。
「たぶん……」
一乃が一歩前へ出た。
腕を伸ばし右手を頭上に上げる。
今、自分の持っている力の最大限を出す。
手のひらの真ん中に集中する。
大きな、大きな光の球体を生み出した。
どんどん膨れ上がっていく。
一乃が空を見た。
「月の杜」は無数に飛んでいる黒い点のもっと向こう。
場所は分かった。
もう地力もない。
でも、まだそこにいる。
似ている。妖を見れば分かる。同じ人間が作ったものなのか。
鬼を作り出した、
結界の角を壊そうと妖を送って来た、
先生を奪った、
「あなたに……そっくりそのまま……」
一乃が振りかぶった。
「お返しします」
一乃が光の球体を投げた。
光が勢いよく飛んでいく。
こちらに近づいて来ていた黒い点たちを巻き込んだ。
光の球体に黒い点が吸い込まれる。
全てを飲み込んで、そのまま空の向こうに飛んで行って見えなくなった。
「……」
一乃がふらつく。
環奈が後ろから肩を支えた。
「大丈夫ですか?」
「……うん」
「力を使い過ぎたね。今日は安静に」
凪が近づいて来て言った。
「で? ど、どうなったの?」
明蘭が聞く。
「……終わった……と思います」
一乃が答えた。
「じゃあ「月の杜」は……」
「……」
朝晴の問いに、答える人は誰もいなかった。
5人と環奈が空の向こうを見る。
星がチラチラ光る真ん中に欠けた月が昇っていた。




