4話②
一乃が走る。
すぐ後ろには環奈がいた。
廊下を抜け、玄関から外に飛び出す。
周りにいた者は、みんな驚いた顔をしていた。
「西……」
玄関を飛び出した一乃は右方向の庭に走った。
「……」
一乃が集中する。
どっちだ。
北の端か、南の端か。
「一乃様……」
環奈が心配そうに後ろに立つ。
「環奈、こっち」
一乃が左方向を指差した。
「?」
一乃の差す方向には特段なにもないはず。
ここは庭が広がっているだけだ。
小走りに走る、一乃を追いかけた。
白い髪が揺れる。
とうとう、塀の角までやって来た。
「これだ……」
「一宮!」
2人の後ろから、龍臣と明蘭と朝晴、凪が走ってくる。
「ここに……どうしたんだ?」
「これ……」
一乃が下を見る。
塀の角には、丸い石が積みあがっていた。
凪が言う。
「結界の角か。これはひどい」
環奈でも分かる。
嫌な気配が石にまとわりついている。
近づいてきた人間に気付いたかのように、気配が黒い実体になった。
2つの赤い目、黒く長い腕と足。
なにを模した生き物なのか……
黒い生き物がこちらを見てケタケタ笑う。
長い腕を器用に使い、転がっている石を掴んだ。
そのまま持ち上げ、積み重なった石へと投げつけた。
「! ……い、た……ぃ」
一乃が崩れる。
環奈が後ろから受け止めた。
「あれか」
「壊そうとしている?」
朝晴が一乃を見た。
一乃は地面でうずくまっている。
「……」
朝晴が結界の角に近づく。
黒い生き物が警戒した。片手で転がっている石を持つ。
「……」
また投げつけるつもりか。
これ以上、近づけない。
また、黒い生き物がケタケタ笑った。
朝晴がその場でしゃがむ。
地面に星を、その外側に丸を描いた。
素早く右手を添える。
結界の角――積み重なった石近くの地面から薄く光る手が生えてきた。
そのまま黒い生き物を鷲掴む。
黒い生き物は手に持っていた石を落としてしまった。
キーキーと暴れ出す。
光る手はガッチリと掴んだままだ。
黒い生き物の動きが止まった。
熱い。
チリッと火花が散った。
「?」
黒い生き物の体から炎が生まれる。
瞬く間に光る手ごと燃え出した。
「くっ……」
地面に手を置いている朝晴が身動ぐ。
左手で術符を1枚取り出した。
口元に近づける。
術符が光った。
ハタハタと羽ばたき始める。
燃える黒い生き物に向かって飛び出した。
飛んできた術符が黒い生き物にへばりつく。
光る手が消えた。
術符がついたまま、地面に転がる。
朝晴がまた新たに術符が飛ばす。
のたうち回っている黒い生き物にへばりついた。
朝晴が今度は両手で地面に触れる。
黒い生き物を囲むように、地面に、星と丸の紋様が出てきた。
紋様が光る。
黒い生き物がこちらを見た。
体に貼りついた術符を貪っている。
「……なんて奴だ」
一乃が朝晴の両手の近くに自身の手を置いた。
黒い生き物を囲んでいる紋様の光が増す。
ギ……ギ……と鳴き出した。
「ごめんなさい」
一乃がポツリと言う。
光が黒い生き物を包み込んだ。
そのまま、地面へと引きずり込む。
赤い目がずっとこちらを見ている。
黒い生き物は、光と一緒に地面へと飲み込まれていった。




