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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第5章
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4話 一乃①

物語が動きます。


 ハッと目が覚めた。

 痛い。

 頭が痛い。


「一乃様、大丈夫ですか?」

 横を見ると環奈がいた。


「……環奈……」

 体を起こす。

「無理しないでください」

「環奈、今日は……」


「? 一乃様が倒れたのが昨日の夜です」

「昨日?」


「……い、今、何時?」

「え、えーと……16時を回ったくらいでしょうか」

「……行かなきゃ」

「え? ダメですよ! 寝ていないと」


 一乃が環奈の手を握る。


「ごめん……環奈……」


「……ごめん、一緒に来てくれる?」


「……」

 ずっと震えている手。

 俯きながら、真っ直ぐ目を見てくる。

 

「分かりました」

 そう答えるしかなかった。





 ―――


 椎名照星の部屋に一乃以外の重役が揃った。

 部屋の左右に2人ずつ座る。

 部屋の奥の台座に座る照星の両隣に男女の秘書が座っていた。


 部屋の真ん中には、1人の男性。


 正座をして、下を向いていた。


 照星が口を開く。

「久しいな、奈取」

 正座をしている奈取が返答した。

「ああ……そうやね」


「ここに連れてこられた理由は分かっているな?」

「……ああ」

 奈取の受け答えに女の秘書が頬を膨らませる。

「態度が悪いですねぇ。お知り合いかも知れませんけど、罪人ですよ?」

 奈取が秘書を見た。

「そうやな」

「むぅ」

 動じない奈取にもう一度、頬を膨らませる。


 もう一度、照星が口を開いた。

「先日、隣の林で捕まった。……その時、何をしていたんだ?」

「さぁ? ……観光やない?」

「朝晴の妹と来ている。間違いないな」

「そうや……けど、あの子はなにもしてへん。なにも知らへんからな」


 朝晴が奈取を見る。

「……」


 照星が質問した。

「何を?」

「教えへん」

 照星がため息をついた。

「……奈取、お前はもう力が無いんだろう?」

「……」

「これからどうするんだ」

 奈取は照星をずっと見ている。

「別に、どうもせえへん」


「ここで口を割らないと、術を使うことになるぞ?」

「術?」

「昔の三宮が作り出した、自白の術」

「……嫌やわー。あの人の術」



「……そないなことするなら、自分で死んだ方がましや」

「!」



「椎名様が命だけは取らないだろうと思ってそんなこと言うんですか?」

 女の秘書が奈取に嫌な顔をしながら言う。

「……」


 照星が頭を抱える。

「奈取……それなら……」


「島流しにする他ない」



「島流し?」

 龍臣が疑問の声を出す。

「島と言っても、遠い地もしくは……異国も視野に……」





「待ってください!」




 突如、部屋に声が響いた。


 全員が扉の方を向く。


 一乃だ。

 こんな大きな声は初めて聞いた。

 青白い顔で部屋に飛び込んで来た。

「一乃?」


 息を切らし、部屋を進む。

 一乃が奈取の隣に立った。

 環奈が心配そうな顔で一乃の後ろに立っている。


「一乃……」

 言いたいことがありそうな照星は、言葉を飲み込んだ。


「こいつの処分が決まった……流刑だ」

「……」


「こいつは口を割らない」


 一乃が奈取を見る。

 奈取は前を向いたままだ。


「……」


「……ダメです」

 一乃が小さな声で言う。

「こいつのやったことは変わらない。処分は下さなければいけない」


「……ダメです」

「一乃、組織の問題でもある」


 一乃はずっと苦悶の表情だ。

 痛みが走るのだろう。

 一乃が拳をギュッと握った。


「それなら……」


 体が震えている。




「奈取さんを、一宮に入れます」




「!!」


 奈取がやっと一乃を見た。


 照星が一乃に聞く。

「……一乃、正気か?」

「はい」


 続けて横に座った女の秘書も口を開いた。

「一乃さん、この人が何をしたか分かっているでしょう。そんな危険人物を置いてなんかおけます?」


「分かっています」

「でも……」


「でも……私はこの人を守りたい」


 一乃が震えながら言う。

 

 どうしても、彼が悪人だと思えない。

 「月の杜」の人間だとしても。

 約1年前の動物襲撃事件も、夏祭りの時も、収容されていた小部屋で話した時も、彼には優しさがあった。

 その優しさが嘘だったとしても……


  ――「ここ、お気に入りねん」


  ――「慣れてへんだけや。大丈夫」

 


「私は奈取さんを信じたい」




「……」


 静まり返った部屋で最初に口を開いたのは奈取だった。


「分かった……」


「一宮はん、手がかりを教えたる。……でもその前に西や。北と……南のどっちかはわからへんけど、どっちかや」

「西……?」


 一乃がハッと気づいた。


「ありがとうございます」

「……全然やで」


 一乃が部屋を飛び出した。

「ま、待ってください!」

 環奈が慌てて後を追う。


「え〜? どういうことです?」

 女の秘書が、訳が分からないとまた頬を膨らます。


「西……?」

「後を追うぞ」

「……ああ」

 朝晴が部屋を飛ぶように出た。

 龍臣と明蘭も続く。



 奈取に1人近づいた。

「奈取さん、これ……」

 凪が黄色い花を差し出した。

「自分が教えたんか」

「……バレた?」

「ええ趣味やね」

 奈取がクルクルと花を回しながら言う。

「……」

「おおきに、もらうわ」

「……じゃあよろしく」

 と言って凪が部屋を足早に出て行った。



 照星がその様子を見ている。

「……」

 男の秘書が言った。

「椎名様、よろしいのですか? みなさま行ってしまわれましたよ」

「……いい。おそらく、それじゃないと上手くいかない」

「はい? この人はどうするんです?」

 奈取を見て今度は女の秘書が言った。

 照星も奈取を見る。

 


 なにが一乃を動かしたのだろう。

 昔からおっとりしていて、自己表現は苦手だった。

 紅葉が亡くなって、かなり憔悴していたが、ここで過ごしていくうちに話せる知人が増えたらしい。


 人の繋がりは強い。

 かつて紅葉が言った言葉。

 

「いい、そこに座ってろ」

「え〜」






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