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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第1章
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3話②

頼れる朝晴。


「よ!」

 扉を開けると無数の紙が飛び、赤い髪の男が出迎える。

「来てくれると思ったぜ」

「暇なのか」

「暇じゃねえよ、先輩が話聞くって言ってるんだぜ」

「あなたに話すようなことは無いけどな」

「そう言わない、言わない」


 朝晴は一乃の仕事机の前に置いてある椅子に座って手招きした。

 龍臣も朝晴の隣に椅子を置いて座る。机をはさんで3人で向かい合った。


「ネズミ事件の次は、サル事件だったんだろ?」

「どこまで知っているんだ?」


「報告書に書いてあったことしか知らないぜ?廃寺に行って、サルが襲ってきて、龍臣が成敗して、霧になって消えて、紙切れまみれになった」

「おい、なんだ紙切れまみれっていうのは」

「調査班の書いた報告書には、そんな感じのことが書いてあったような、気がするような?」

「まあ、間違いではありませんから」

「一宮、訂正しとけ」

 龍臣が頭を抱える。



「不思議だよな、霧みたいにいなくなったんだろ?目的がはっきりしないよな。というよりも、人間の仕業なのか? 怨念が溜まりに溜まって動物に憑依しているとか?」

「調査班の見立てじゃあ人間の仕業だと結論づけている。宝物庫で鏡がなくなったことも動物のように知性がなければ出来ない。それに……」

「それに?」


「紙切れ」

「ああ、まみれの」

「まみれていない。その紙切れ、あれは術符だ」

「術符?そう言い切れるのか?」

「あの紙には、紋様が書かれていた。それにサル一体一体に付いていたんだ。あれがなによりの証拠だ」

「……一体一体に、その紋様ってのはどんなもんだったんだ?」


「こちらですね」


 一乃が紙を机から引っ張り出した。

 手で書いたのだろうか、子どもの落書きのような筆跡で書かれている。

 朝晴が紙を受け取ってしげしげとみた。


「調査員が書いた報告書には載ってなかったぞ」

「調査員が触ろうとした瞬間に消えていったんだ。それにしても、この紋様、お前が書いたのか?」

 龍臣が一乃に聞いた。

「いいえ、依田さんが書いてくださいました」

「もっと調べたかった。と悔しがっていましたよ」と環奈が続ける。


 うーん、と朝晴が紙を見ている。

「なにか知っているのか?」

「一乃ちゃん、本見ていいか?」

「? はい」


 朝晴は、部屋の壁一面にある本を調べ始めた。

 西日が部屋に入る。

 橙色の光が、龍臣が持っている紋様の紙を照らした。

 子どもでも書けそうな落書きにも見える紋様。


 術符とは念を込めた符。扱いは簡単で、一度に量産も可能だが、自分の思うように動かない時もある。相手の目暗ましに使用すれば、かなり効果的だ。自身の力を出さなくても、相手を翻弄出来る。


「一宮、お前は術符を使えるのか?」

「分かりません。作ったことがないので」

「……そうか」


 術符を作るには、術を組み出すことと同じ力が必要だ。

「龍臣さんは使いますか?」

「いや、俺は使わない。作ったことがあるのも、ずっと昔に修行で作ったきりだ」

「そうですか。……術符というものは、必ず、このような模様を書く必要があるのですか?」

「ん?」


「この模様はどのようにして決まっているのですか? 術を込めた人を表している? それとも術自体?」

「ああ……これは、大体、その流派の模様がある。ここ「星の宮」の紋が星の形をしているように、家々にも家紋があるだろう? それと同じ、自分の流派の模様を書いているんだ」

「そうなのですね。……自分で生み出すことも出来るのですか? 流派や家を勘当された者が、新しく流派を作る時などは」

「そうだな、それは不可能ではないはずだ。新しく出来た流派は多いだろうし……」

「……であれば、真っ白な紙に術を込めることは出来ないのでしょうか」

「?」

「模様を書くと、流派が分かってしまう……書かない方が犯人にとっては安全なのではないかと」



 考えたことが無かった。書くことが当たり前だと思っていた。

 書かなければ術は発動しない……

 でも、書かずに発動できたなら?彼女の言った通り、自分がやったとバレずに済む。



「それも出来るぜ」

 朝晴が一冊、本を持ってやって来た。

「そもそも術符も力を込めなければ、ただの紙だからな。ガキの頃、1枚1枚に紋様書くのが面倒でよ。なにも書かずに術符作って修行してたんだ。そうしたら術が大暴れ! ……紋様書いていないのが親にばれてこっぴどく怒られたよ」

「それは……」


 一乃を見て朝晴が笑う。

「まぁ要はさ、力をきちんと”あるべき”形に出す、式みたいなもんなんだよ。書いてなければどこに力が行っていいのか分からず暴れてしまう。出来るだけ思い通りに動かすための人間の知恵だな」



 うんうん、と言いながら朝晴が開いた本をドンッと机に置いた。

 その場の全員が机を覗き込む。


「だい――――――ぶ、昔の本だけどな、ほら、ここに載っている」


 指先には、確かに紋様に似た絵が書いてある。


「過去に「星の宮」に所属していたのですね。所属人数は、あまりいないようですが。頭との仲違いにより脱退と書いてあります」

「頭って……」

「椎名様じゃない。脱退したのは10年以上前の話だ」

「じゃあ、なにかしら「星の宮」に恨みがある者の犯行ということですか?」


 環奈の言葉に桔梗が制す。

「ネズミの件とサルの件……どちらも同一人物の仕業という証拠はありません」

「ですが、ネズミを追ったらサル出現ですよ?」

「まぁ、そう考えちまうわな。その場にいなかった俺も思う」


「ネズミとサルの事件の犯人が同一人物だとして、ああ、あと牛事件もあったな……目的はなんだ? やはり恨みがあるということか?」

 龍臣の疑問に朝晴が疑問を乗せる。

「よく分からねぇよな。鏡が欲しければ、ネズミで隠さなくても、そのまま持っていけばいいし。頭……椎名様が目的なら、その牛事件の時にでも騒ぎ起こして秘密裏に侵入すればいいのにな」



「それにしても五宮、こんな資料があるのをよく知っていたな」

 龍臣が思い立ったように言った。

「んん? そうだろ? 意外と勉強家なのよ。俺は。何でも聞いてくれ」

 ふふんと鼻を鳴らす朝晴。


「犯人分かるか?」

「それは知らん。もっと違う質問をしてくれ」

「紋様の出所が分かったのには感心するが、それが分からないことには」

「それを調べるのがお前たちの任務だろ?」

「先輩が話を聞いてくれると言ったもので」

「先輩はなんでも屋じゃないぞ~。もっと優しくしてくれ」


 2人のやり取りに一乃が言う。

「仲良しですね」

「そうだろ?」「違う」

 同時に答えた。



「それはいいとして、これからどうするかだ」

「椎名様に、この件を報告されますか?」

「もう知っているかも知れないな」


 全ての情報があの人に入る。調査班から、知らされているかも知れない。

 それも踏まえ、今後、どう動くのが得策なのか。この紋様を使用している人間たちは何人いるのか。なにが目的なのか。

 分からないことだらけで、思考が止まりそうになる。

 おまけに協力者は、術符も分からない少女。

「一宮、お前は何か算段はあるか?」

「そうですね……、!」


 一乃が急に立ち上がる。

「?」

 窓の外を見た。


「環奈」


 目線を外に送りながら続けた。



「来ます」







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