3話 照星①
照星と紅葉のお話。
紅葉は幼馴染だった。
子どもの時から、気づいたら隣にいた。
初めの方は鬱陶しく感じていたが、長い間、隣にいると一緒にいることが当たり前になっていた。
昔から、のらりくらりしていて、分け隔てなく誰とでも接する人間だった。
術に関してはかなりの凄腕で、へらへら笑っている割には通常の仕事の片手間に、任務をこなすような天才だった。
正直、結婚したことは意外すぎた。
人間……というか、女性に興味を持っていた事に驚いた。
あいつはいつも急に報告、連絡、相談してくる。
結婚したことも、子どもが産まれたことも、妻に先立たれたことも、いつも急に聞かされた。
―――
「……だから、なんで早く言わないんだ」
「ごめん、ごめん。照星、この通り」
紅葉が顔の前で手を合わせる。
一宮の仕事部屋で、紅葉は自分の椅子に、照星は机を挟んで向かいの椅子に座っている。
「もうすぐ出来そうだよ。本当に」
照星がパラパラと本をめくった。
「期限はとっくのとうに過ぎてるぞ」
「でも……本当に、もうちょっと……後書きだけ」
「後書きなんかいるか?」
「ちゃんとした教科書を作りたいって言ったのは照星だろ? 最後までキッチリ作らないと」
照星が呆れた顔で言う。
「……あいつら読むか?」
「誰?」
「朝晴と凪里」
「ああ、仲良しのね」
「最近、講義サボるからな」
「え? 凪里は真面目なイメージだったけど?」
「朝晴が来て変わったんだよ。悪い方向にな」
「あははは、いいじゃん。楽しそうだね」
紅葉が笑う。
「楽しい訳あるか」
「俺らに似てるね。あの2人」
「どこがだ」
「仲良しのところ」
満面の笑みで答える紅葉。
「……」
それを見た照星がため息をついた。
心がむずむずする。
話題を変えた。
「今日も行くのか? 実家に」
「うん、行くよ」
「……会いに?」
「会いにね」
紅葉が少し真剣な顔になる。
「……あー、照星だから言うけど……」
「?」
「今度、一緒に夜に会いに行かない?」
「はぁ?」
「一乃に」
「なんで?」
「もう一度、照星だから言うけど……」
「?」
「あの子はね、力がない訳じゃないんだ」
「え? いや、だって……」
「うん、俺もずっと無いって言ってた。力の判定に来ても、結果は無能。誰もあの子の力を感じたこともない。でもね……」
「……」
「夜にならある」
「夜?」
「夜」
「……なんで……」
今まで言わなかったのか。
紅葉だって、無能な娘を持った。と周りに馬鹿にされ続けていた。
「俺もよく知らないことがいっぱいあるんだ。だからあの子の力が見てみたい」
「照星、一緒に行こうよ」
「……」
―――
思えば、産まれてから数年経つまで、一乃には昼間にしか会ったことはなかった。
感じられたくなかったのだろう。
夜にしか使えない力。
底知れない、膨大過ぎる力。
後で聞かされた。
産まれた時から、夜しか感じない力があったという。
周りの大人では対応し切れない程の力に誰もが恐怖を感じた。
一乃が産まれたあの頃は、丁度、「星の宮」に対する反対派が浮き彫りになった頃。
紅葉は、一乃の力が反対派に悪用されるのを恐れたそうだ。
実家の離れに隠し、一乃の素性を知っているのは、ごく一部。
守るためとはいえ……
それが、その行為が正解だったのかは、よく分からない。
月日が流れ、一宮家の惨事の際、一乃は力を使ってしまった。
「星の宮」でも、騒ぎになったほどだ。
一体誰が、あの妖を仕留めたのか。
反対派にも噂が行くに決まっていた。
力を発動させなければ、他の人間には気づかれないだろう。
でも、それも時間の問題だと思う。
一乃には口酸っぱく言ってきた。
緊急の時以外、特に夜は、力を押し込んどけ、と。
「星の宮」は紅葉の作った結界で覆われている。
一宮家の惨事で、紅葉がいなくなった瞬間、結界の崩壊が始まった。
あの結界を維持させるには、一宮家の人間でなければならない。
まだ何も知らない、分からない一乃を、一宮の頭領するしかなかった。
願い……
あいつの願いを守れているのだろうか。




