2話③
眠れない。
朝晴は夜の廊下を何気なく歩いていた。
今日は月が出ていないおかげか、空の星がよく見える。
耳鳴りが続いていた頃はよくやっていた。
気が紛れるからだ。
もう少しで日付けが変わる。
「?」
朝晴は一乃の部屋に明かりが付いているのを見つけた。
夜中だというのにどうしたのだろう。
部屋の扉を叩いた。
「……はい」
彼女の声がする。
朝晴はサッと扉を開けた。
「一乃ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
「……朝晴さん」
一乃は自分の席に座っていた。
「ここに……いると、落ち着くから……」
眠いのか、少し声がゆっくりで小さい。
「そうか、最初にここで会った時もそうだったね」
「?」
「一乃ちゃんがこの部屋に来たばかりの時? 俺があの日、来た時も、こんな真夜中だったな」
「……」
「覚えてる?」
「……はい、真夜中でした」
「一乃ちゃん、もう1つ聞きたい事があって」
「?」
「昔から気になっていたけど、よく、俺の耳鳴りのこと気づいたよね」
「……あれは……」
一乃が考える。
「私も聞こえてたから……」
「え?」
「初めは……朝晴さんが音を出しているものだと思っていました……」
「でも近くに行ったら、違くて……」
「何処か、遠くで鳴ってるって……」
熱い。
「たぶん、朝晴さんの方が、うるさく聞こえている……から辛いだろうな……」
「……て思っていました」
「一乃ちゃんも聞こえてたの?」
夜月は、朝晴にしか聞こえないようにした。と言っていた。
なぜ、一乃も聞こえたのだろう。
「はい、たまに……」
眠そうな声で答える一乃。
「そっか……」
熱い。
「……」
「一乃ちゃん、体調そんなに良くないだろう?」
朝晴の声が聞こえづらい。
「まだ寝ない?」
熱い。
「……」
一乃が椅子の上で膝を抱えて座る。
熱い、熱い、重い……
朝晴が一乃の異変に気がついた。
近寄って、膝を床につく。
「一乃ちゃん?」
「……朝晴さん、「月の杜」は……近くに湖がありますか?」
「! ……どうしてそれを」
「ごめんなさい……まだ……分からなくて……」
熱い、痛い……
「!」
一乃が前に倒れこんだ。
朝晴が抱き止める。
「一乃ちゃん!」
息が荒い。
呼吸をしているのがやっとだ。
「……い」
「え?」
「……痛い……いたい……」
一乃が小さな声で呟く。
「痛い? ……どこが……」
「朝晴」
後ろから声がする。
朝晴が振り返った。
誰もいない。
「ここや」
一乃の机に置かれた花瓶。
5色の花が入った花瓶の隣に、もう1つ花瓶が置いてある。そこには白い花だけが入っていた。
「奈取? ……どうして?」
白い花から奈取の声が聞こえてくる。
「今はええ。とりあえず言うことやっとき」
奈取が朝晴にある術を教える。
「? それって……」
「ええから、ええから」
朝晴が言う通りに術を組んだ。
一乃の息がゆっくりになっていく。
体が熱い。
「まぁ少しは大丈夫やろ」
「あんた、なんで会話が出来るんだ?」
朝晴が白い花に向かって言う。
「もらったんやで? 一宮はんに」
「もらった?」
「そうやで、後で聞いてみ」
「……なんで……」
「ええから、ええから。寝かせてあげてや」
その言葉以降、花は静かになった。




