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2話②
あの日から、眠れない日が増えた。
どうしても思い出してしまう。
気づけば、勝手に涙が出てくる。
先生との思い出がこんなにも苦しいものになるとは思わなかった。
初めのうちは、環奈が手を繋いでくれた。
でも、環奈だって仕事がある。
あの日のことを思い出すに決まっている。
迷惑をかけたくない。
何も出来ない、何も知らない自分をずっと世話してくれたのは紛れもしない彼女だ。
今日も、布団に入ってしばらくしても眠りにつけなかった。
何回、寝返りをしただろう。
隣の布団からは、環奈の寝息が聞こえる。
「……」
静かに布団から出て、寝室から廊下へ出た。
夜風が気持ちいい。
雲もなく、星もよく見えた。
廊下を歩いて、行く場所は決まっている。
いつもの仕事部屋。
誰もいない、部屋の扉を開け、明かりをつけた。
かつて先生が使っていた部屋、机、椅子、筆、本……
ここにいると落ち着く。
ここにいたい。
最近は、訪問者が多い。
昼間は他の重役が来るし、夜はたまにだが朝晴が来る。
もう耳鳴りは解決した。
来なくなるのも時間の問題かもしれない。
「……」
椅子に腰を下ろした。
静かだ。
何も起きない。誰もいない。
自然とまた、涙が出てきそうになる。
胸が痛い。
痛い。




