2話 奈取①
話を聞きに。
「……?」
環奈の質問に首を傾げる一乃。
「気のせいだったら大丈夫です」
「……」
「無理しないでくださいね」
先へ行ってしまった龍臣が廊下の奥で手を挙げる。
「行くぞ」
「星の宮」の奥。
普段は誰も行かない場所だ。
廊下の窓も閉め切られ、照明もあまり付いていないせいか、薄暗く、体感温度も少し低いような気がした。
監視員が椅子に座っている。
挨拶をして、部屋に通された。
2畳程の部屋に布団が畳まれ置いてある。
正方形の小さい窓が天井近くに1つ。
天気によっては、すごく暗くなる部屋だ。
部屋と廊下を隔てる壁に障子窓がついている。
「奈取、開けるぞ」
龍臣が言うとゆっくり障子を開けた。
「おわ!」
驚きの声が聞こえる。
部屋の中を覗くと、奈取は床に座って手ぬぐいを畳んでいた。
「なんや、なんや、急に現れて」
「暇してただろ」
「まぁ、あながち間違いやないね」
奈取が障子窓に近づいて来た。
「なにしに来たん? おしゃべりする?」
「ああ、ご希望通り、話をしよう」
龍臣が窓の前で胡座をかいた。
後ろで一乃と環奈が正座をする。
「聞きたい事がある」
龍臣が真っ直ぐ奈取を見た。
「お前のいた「月の杜」は何処にあるんだ?」
「……うーん、教えられへんなぁ」
「もう、ここから出られない。正直に言えばいいじゃないか」
「仲間は見捨てれへんし」
「……仲間? あと何人いるんだ?」
「「星の宮」よりも少ないで?」
奈取がヒラッと手を振る。
「……何が目的なんだ?」
「前にも言ったで? 「星の宮」を潰す」
「何故?」
「喧嘩したんやて」
「その言い方だと、別の人間が「月の杜」を作った事になるぞ」
「……そうやね。間違いやない」
「それで? 今回、お前たちが来たのは何が目的なんだ? 「星の宮」に直接入らず、隣の林に来たのは」
「夜月はお兄ちゃんに会いに来た」
「お前は?」
「うーん、どうやろ?」
奈取がにやにや笑う。
「一宮はんは薄々気づいとるんやない?」
後ろの一乃に話しかけた。
「……え?」
急に話しかけられ一乃が戸惑う。
「困らせないでください」
環奈がピシャリと言った。
「お前は、ずっとここにいていいのか?」
「まぁ……しゃあないし」
「もう力がないんだろう?」
「……」
奈取が目線を下を向けて黙る。
すぐに龍臣を見た。
「自分らかて俺がこれから、どうなるかなんて分からへんやろ」
「……」
「椎名照星の前に連れて行かれて、また、こうやってお話する……口割らんかったら、お仕置きでもあるんかな? 嫌やね」
「言うのか?」
「言う訳ないやろ」
龍臣がため息をつく。
「……それでいいのか?」
「ええよ」
「もういい、埒が明かない」
龍臣が立った。
廊下の方へ行ってしまう。
環奈が心配そうに、廊下に身を乗り出した。
「一宮はん」
奈取が一乃を呼んだ。
「まだ太陽出とったのに、力使えるようになったんやね。すごいやん」
「……」
一乃が小さな声で言った。
「……でも……そんなに上手く使えなくて」
「んー? そうか?」
「……」
一乃が俯く。
「……一宮はん、手出してみ?」
一乃が右手を出した。
奈取が手のひらの真ん中を指差した。
「ここや。手のひらのここ。……真ん中に集中して、想像してみ?」
「慣れてへんだけや。大丈夫」
「……」
奈取が一乃の顔を見る。
「あと、自分、大丈夫なんか?」
「?」
「ここにおって大丈夫なんか? 無理したらあかんで」
「……え、えっと……?」
「ほな、がんばってな」
「あ……待ってください」
「ん?」
一乃が両手をギュッと胸の前で握る。
すると、白い小さな花がポンッと現れた。
「これ、あげます」
白い花を奈取に差し出す。
ふんわりいい匂いがした。
奈取が受け取る。
一乃が立った。
廊下の方へ曲がる手前で、奈取の方を向く。
「あの……私が、守りますから」
一言、言って行ってしまった。
「……」
奈取が白い花を見る。
「無理したらあかんって言うたやん……」
頭をポリポリかいた。




