1話③
あの鶴はどこにいっただろう。
あの日に燃えてしまったのだろうか。
「一乃?」
龍臣が顔を覗いてきた。
ここは一乃の仕事部屋。
当たり前のように、5人の重役が集まっている。
別に一緒にやる仕事があるわけでもない。
本当にたまり場のようになってしまった。
「はい」
一乃が龍臣に返事をする。
「……奈取と夜月についてだが、もう会いに行ったか?」
「いいえ」
つい、先日に「月の杜」の奈取と夜月が捕まった。
今は、「星の宮」の小さな部屋にそれぞれいるらしい。
牢屋等ではないため、監視員が一日中張り付いているようだ。
「まだ、なにも口を割らないらしいな」
「……」
「五宮は会ったんだろ? 妹に」
「ああ……これと言って、「月の杜」のことはなにも話していないけどな」
「私も行ったわ。夜月さんのところ」
明蘭が言う。
「なにをしに」
「小説を貸しただけよ? あそこ退屈なんだって」
「いいのか? 怒られないか?」
「椎名様には許可はもらったわよ」
明蘭がふふんっと言った。
「……奈取さんには誰も行っていないのか」
凪の言葉に全員が黙る。
「行きたいか? 三宮」
龍臣が聞いた。
「え……全然、むしろ、嫌だ……」
「あの人、人気ないな」
「……朝晴が行って来てよ」
「え~~、嫌だなぁ。行ってなにかを話すとは思えないし」
「私が……行きます」
一乃が久しぶりに声を出した。
4人が一乃を見る。
「別に、必ず行く必要はないんだよ? 一乃ちゃん」
「そうよ、何してくるか分からないんだし」
朝晴と明蘭は言うが、一乃は首を振った。
「行ってみたいから。話してみたいです」
「……じゃあ、俺も付いて行く」
龍臣が言った。
「私もいいです?」
部屋の奥から環奈も顔を出した。
「見学会じゃないんだぞ?」
「分かってますよー」
やれやれと龍臣が言う。
「準備できたら行くか」
「一乃様、なにか持っていくものあります?」
「……う、うーん……」
一乃が環奈の方へ移動する。
目線をそちらに向けると、龍臣はふと、視界に入った部屋奥にある大きな机が気になった。
机の上には、本が大量に乗っている。
本棚に仕舞い切れないのか。山積みで一体、何冊置いてあるのか分からない。
龍臣は本の山に近づいてみた。
指南書や、随分前の決算書も置いてある。
少し埃っぽい。
「一乃、ここ片付けないのか? ずっと前からこの状態だろ?」
他の3人も近づいてきた。
朝晴と凪が同時に声を出す。
「まだあったんだな」
「……懐かしい」
「なあに? それ」
明蘭が2人の手元を見た。
「これは、俺らが使ってた教科書だよ。今は全然使ってないから、もう無くなったとばかり思ってた」
「昔の物なのね」
「俺らがおじさんみたいに言わないでくれ」
一乃も山積みの本に近づく。
「一宮、これ全部、一宮の物?」
凪が聞いた。
「いいえ、これは、先生の物です」
「そっか、だから懐かしい本があるんだ」
一乃が、山積みの一番上から一冊本を取り出した。
少し埃を被っている。
表紙に「一宮」と書かれていた。
?
これは間違いない、自分の字だ……
この部屋に持って来たっけ?
自分の持っていた本は、ほとんどが燃えて無くなったはずだった。
不思議に思っていると、持っている本からスルッと何か落ちてきた。
少しくたびれている、折り紙の鶴。
「……」
これ……
一乃が本と一緒に、両手でギュッと握る。
その様子を凪が見て言った。
「……一宮、別に片付けなくても大丈夫だよ。邪魔になっている訳じゃないし」
「……」
「まぁ、そうだな」
「……行くか」
奈取のところへ。
なにかを話してくれるだろうか。
「はい」
3人は仕事部屋から出る。
扉を閉める直前、環奈の声が聞こえてきた。
「一乃様、もしかして体調悪いですか?」




