1話 紅葉①
最終章スタートです。
あの日の一乃と先生のお話。
あの日は突然だった。
夕方。
空は半分が橙色、もう半分が紫色に染まり1日の活動の終わりを表しているようだった。
猛烈な重圧。
こんな表現しか出来ない。
急に体が重くなった。
建物が揺れる。
どこからか、爆音が鳴り、続いて悲鳴や怒号が聞こえてきた。
壊れる音が、破壊の音が、離れに近づいてくる。
「?」
なに?
怖い。
母屋で何が起きているのだろう?
今まで、こんなことが起きたことはなかった。
「か、環奈……」
環奈は母屋にいる。
でも、自分は離れから動いてはいけない。
恐る恐る縁側から庭へ出た。
どんどん暗くなり、足元が見えずらくなる。
振り返って、母屋の方を覗いてみた。
何かいる……
空を見上げる。
大きな何かが、建物を破壊している。
台所の方から火が出ていた。
叫び声や泣き声も聞こえてくる。
「……」
どうすれば……自分はどうすればいい?
動けない。
怖い。
どんどん離れの方に近づいて来る。
妖だ。
気が遠くなるほどの負の力を纏い、破壊し続ける。
炎と煙が上がっている。
きな臭い匂いが、ここまで届いた。
環奈は……
「一乃!」
突然、声がした。
振り返ると、いつもの木陰から先生が現れる。
「先生……」
「大丈夫?」
先生がこっちに来ようとした。
「!」
妖がこっちに気がついた。
体勢をこちらに向ける。
持っていた棒を振りかぶった。
投げる。
先生が左手を空に向かって突き出す。
光が生まれ、飛んできた棒が弾かれた。植木の方へ飛ばされる。
「一乃、怪我は?」
「ありません」
「良かった……」
先生が母屋の方を目を細めて見る。
「みんなは……」
妖はまだ、こちらを見ている。
「一乃、とりあえず逃げよう」
先生が手を握る。
でも、
「?」
先生の動きが止まる。
「せんせ……?」
「そうか、今日か」
「?」
「一乃、大丈夫。君は強い、1人じゃないよ」
「え……?」
「自分を信じるんだ」
「あと、俺はそばにいるから」
「……?」
2人の足元に大きな文様が現れる。
「!」
「こんな時に来るなんて性格が悪いな」
妖が右手に力を溜める。
どんどんと形を変え、大きな槍のようになった。
こちらに向けて、ゆっくりと振りかぶる。
「先生」
「ごめん、動けないんだ」
「?」
「大丈夫、一乃は必ず守るから」
先生の体が光る。
瞬間、ものすごい勢いで風が吹き込んだ。
風圧で周りの石や木も一緒に飛ぶ。
「……っ!!」
先生に抱かれ吹き飛ばされた。
一緒に地面に転がる。
「!」
「先生!」
苦悶の表情をする先生。
胸の辺りから血が出ている。
一瞬で理解した。
ここで終わってしまう、と。
妖はもう、こちらを見ていない。
母屋の方へまた顔を向けている。
あ……
「お……」
「お父さん……」
先生がフッと笑った。
「……気づいてたか」
「いやだ……」
「……一乃」
先生が優しく頬を触ってくれる。




