表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第4章
70/88

5話 朝晴①


 桜の蕾がまた一層、膨らんだように見える。

 今日はあいにくの雨だった。

 シトシトと降る雨が、蕾を濡らす。


 外を行き交う人は少ないが、廊下を歩いている人は普段よりも多い。



 「月の杜」の奈取、夜月が捕まった。



 その出来事は「星の宮」にとって、とても大きな事件だった。


 「星の宮」には牢屋がある訳がなく、捕まった2人は狭い個室に入れられているという。

 監視員が付けられ、見張られているらしい。

 人員確保や事務作業の対応に追われている者が慌てている。




 ―――


 本当にあの日から耳鳴りが鳴らなくなった。

 ひどい日には朝起きた瞬間から鳴っていた。

 頭痛がする時もあった。

 11年悩まされていたのに……


 妹が「星の宮」にいる。

 会いに行くか迷う。


 会いには行きたい気持ちもあるが、何を話せばいいのだろう?

 11年間の溝をどう埋めればいいのだろう。

 怒られるかな……

 泣かれるかな……



 ぐるぐる考えていると、一宮の仕事部屋の前までやって来た。

「……」

 何気なく、扉を叩く。


「はい」

 いつもの、のんびりとした声が聞こえた。

 朝晴がサッと部屋に入った。


 一乃が窓際に座っている。

 扉を開けた瞬間、紫色の鳥が窓から外へと飛んで行った。

「朝晴さん」

 一乃が近づく。

 朝晴の顔を覗き込んだ。

「……大丈夫ですか?」

「え?」


「まだ……音が鳴っていますか?」

「ううん、もう鳴らなくなった。本当に……無くなったよ」

「良かった」

「……」

「耳飾りはまだ付けますか?」

「……ああ、そうだね。せっかく一乃ちゃんからもらったし」

「寝てる時、邪魔じゃないですか?」

「大丈夫だよ、ずっと付けてるから慣れたよ」

「そうですか」



 一乃が自分の椅子に座る。

 朝晴は机を挟んだ向かいの椅子に座った。


 机には大量の書類の束が置いてある。

 朝晴が横目で見て言った。

「一乃ちゃん、これ、やらなきゃいけない仕事?」

「そうです」

「この量を?」

「はい」

「かなりあるけど……」

「大丈夫です。いつか終わります」

 気にせず、一乃が言う。


「いつかは終わるけど……」


「朝晴さんは、何か考え事ですか?」



「え? ……ああ」

 急に質問され朝晴は驚いた。

「妹さんですか?」


「……そうだね。会いに行こうか、迷ってるんだ」


「行かないんですか?」

「会って、なにを話せばいいのか分からなくて……それに、怒ってるかな……って思って」

「怒らせちゃったんですか」

「……うーん、本当に怒っているのかは分からないんだけど」


 曖昧な回答に一乃が首を傾げる。

「?」

「悲しませたと思っているし、怒っているかもしれない」


「置いて来ちゃったんだ。頼れる人が俺くらいしかいないって分かってて。両親はいたけど別の所に住んでいたし……周りに同年代の子はあまりいなかったからね」


「そのまま11年も経った」


 朝晴は窓の方を眺めている。

 一乃がそんな彼を見て言った。



「朝晴さんは、どうしたいですか?」



 朝晴が一乃に目線を移す。

「会いたいですか?」

 真っ直ぐ見てくる一乃。


「……俺は……」

 口籠る。

 少し考えて言った。



「……うん、会いたいかな」


「それなら、会える時に会った方がいいと思います」


「そうだね」

 朝晴が椅子から立ち上がった。

「今から、行ってくるよ」


 扉に向かって歩き出した。

 途中で何かに気づいて振り向く。

「あ、一乃ちゃん、終わったら、また来るよ」

「?」

「その仕事、一緒に終わらせよう。2人でやれば早いよ」

「……いいんですか?」

「よく手伝ってもらってるから、お礼だよ」



 朝晴が部屋から出て行った。

 一瞬、部屋が静かになる。


「……」




 コンコン


 扉を叩く音が聞こえた。

「はい」


 扉が開くと、龍臣、明蘭、凪が入って来た。

 3人が同時に来るなんて珍しい。


「そこで2人と会ったから来てみたわ」

「五宮とすれ違ったぞ」

「……朝晴は?」


「妹さんのところです」


「そっか」


 明蘭は窓側の長椅子へ、凪が扉側の長椅子に、龍臣が一乃の机を挟んで向かいの椅子に座る。


「椎名様への報告は終わっているが……報告書は誰が作る?」

「……あ、俺が作るよ」

 龍臣の質問に凪が答えた。

「……あの時、遅れちゃったし……」


 申し訳なさそうに答える凪を見て龍臣が言う。


「……三宮、答えられなかったらいい。あの時、奈取に何をしたんだ?」

「ああ……別に大丈夫だよ。あれはね……」



「力を奪ったんだ」



「力を?」

「奪う?」

 龍臣と明蘭が首を傾げる。

 龍臣が続けた。

「そんな事が可能なのか?」


 頭をぽりぽりかきながら凪が答えた。

「うん……前に一宮の力を引っ張り出したみたいにね。でも、かなり面倒な術式を組まなくちゃいけない。頭も使うし……時間もかかる……」


「俺も初めてやったけど……もう、やりたくないかな……」


「相手側にも負担が大きい……」


 明蘭が質問する。

「じゃあ、あの人――奈取はもう力が使えない訳?」

「そうだね……あの人の力は使えない。誰が与えれば使えるようになると思うけど……」


「奪った力はどうなっているんだ?」

「もう、どこにもないよ。さっきも言ったけど、負担が大きい。俺は、あの人の力を持っていられない。……あの時、あの場で手放したんだ」


「なるほどな……」

 龍臣が納得したのか呟いた。

 今度は凪が龍臣に質問する。


「四宮の占いはどうだった? ……赤色に注意。だったんだよね」

「え? ああ……まぁ、これと言って何もなかった……か?」

「なんで疑問系なのよ」


「五宮とは何も無かった。でも……」


「妹さんですか?」

 久しぶりに一乃が口を開けた。


「ああ……いや……なんか……」

「歯切れが悪いわね。どうしたのよ」


「『あいつと、随分仲が良いのね』って睨まれた」


「?」

「え?」

「あははは! 睨まれたの?」

 一乃と凪は不思議そうだが、明蘭は大笑いする。


「なんで睨まれなくちゃいけないんだ……」


「分かってないわねー。乙女心よ、乙女心」

 明蘭が笑って言った。





次回で第4章が終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ