3話 五宮 ①
朝からバタついていた。
継母から手紙が届き、その返事を書かなければならなかった。
内容は、腹違いの弟――雪臣についてだ。自身の息子を二宮家の頭領にしたいのだろう。直接的には書かれていないものの、欲望が嫌というほど分かる。
「副頭領という形はどうか?」そんなものは俺が決めることじゃない。「星の宮」が決めることだ。
先代の二宮頭領が退陣を発表、父は面倒ごとが嫌いな性格で、後継の話が来るよりも先に辞退を申し出た。叔父上がやるだろうと思った矢先、駆け落ちでいなくなってしまう。
幼少の時から、術でも武でも人よりも抜きんでていた龍臣が抜擢された。
出来るのが当たり前、やってのけるのが当たり前。ずっとそうだった。二宮家に生まれた者であるならば、出来ないことがおかしい。そう生きてきた。
なのに――
「龍臣様」
「どうした?」
「二宮寮の修繕について話し合いがしたいと要望があります。あと、新規に二宮へ配属した者の経歴書もお持ちしました。後でご覧になってください」
「分かった」
頭領になってから分かったが、妖祓いとは無縁の仕事も山程ある。
先代の一宮頭領が亡くなって半年。一宮家の血族は、あの女しかいなくなった。統率力不足を加味され、元々、一宮に配属されていた者たちが、二宮・三宮・四宮・五宮に割り振られている。
なぜ力もないのに頭領なったのか、家柄はそんなに大事なものなのか。
龍臣と桔梗が資料を見ていると、窓から小さな赤い鳥が入ってきた。
「またか」
龍臣が呟く。赤い鳥は桔梗の肩に止まった。
「五宮様でしょうか」
桔梗が鳥に手を出した。指先にぴょこんと止まる。
「そうだろうな。暇なのか」
気づけば、日が傾き夕方になろうとしている。
(もう、こんな時間か)
龍臣は気晴らしに、椅子から立ち上がった。
「行かれますか?」
「ああ、一宮のところだろう」
2人は部屋を出た。