3話 夜月①
久しぶりにあの人が出てきます。
一乃、龍臣、明蘭の3人は部屋を出て、廊下から窓の外を見た。
嫌な気配がする。
東の方角に何かがある。
「なに?」
「行くか?」
「……聞こえる」
一乃が呟いた。
3人は廊下を引き返した。
玄関に向かって走る。
途中、曲がり角で人とぶつかりそうになった。
朝晴だ。
「おい、行くぞ」
龍臣が一言、言うと足早に通り過ぎた。
一乃が朝晴の前で止まる。
顔色が悪い。
「い……」
一乃が朝晴の耳を手で覆う。
「行きましょう」
少し考えて、朝晴がうなづいた。
「ああ」
4人は玄関を出て、東へ向かう。
以前来た林。
見た目は、あの時となにも変わっていない。
奥に何かがいる。
4人で意を決して、林の中に入った。
鬱蒼としていて、薄暗い。
太陽もほとんど傾いてしまっているせいか、林の中は夜のようだ。
野生動物が出て来てもおかしくない。
「星の宮」の塀を伝って奥へ歩いていく。
以前見つけた、塀の落書きの所までたどり着いた。
「……これ」
落書きが増えている。
今度は、犬? 猫? ような動物が描かれていた。
「前から思っていたけど、この落書き、ちょっと下手よね」
明蘭が落書きを見て言う。
「これは、犬か? 熊か?」
「猫だと思ったな」
龍臣の疑問に、朝晴が言った。
「そないなこと、言わんといて」
「!」
全員が後ろを振り返る。
そこにいたのは、
「奈取!」
奈取が懐から、何かを取り出した。
思いっきり、4人に投げつける。
龍臣が前に躍り出た。
術符だ。
おびただしい量の術符を、宝刀で薙ぎ払う。
術符は切れずに宝刀にまとわりついた。
龍臣が、まとわりついた術符を落とすためにその場で宝刀を振る。
しかし、全く取れない。
「……ちっ」
一乃が龍臣に近づいた。
宝刀に手を添える。
少し手が光ったが、術符は取れなかった。
「……」
「おわー。一宮はんって昼間は力、使われへんかったんちゃうん? なんでやろ?」
「話が違うじゃん」
「!」
奈取の後ろにある木の陰から現れたのは、先日、この林にいた臙脂色の髪をした女。
「知らへんよ、今知った」
「ふーん」
女が奈取に近づく。
4人の方を向いた。
朝晴が呟く。
「夜月」
夜月と呼ばれた女が朝晴を見た。
目を細める。
龍臣が2人を睨んで言った。
「何しに来た?」
「俺は……内緒なんやけど……」
夜月の方をチラッと見る。
「こっちは、会いに来たんやて」
「! ばっか……! 言わないでよ!」
夜月が奈取を小突く。
「会いに来た?」
「いてて……そうや~。お兄ちゃんに会いに来てん……いたっ」
「うるさい、うるさい」
夜月が肘で奈取を思いっきり突いた。
夜月を見て、朝晴を見た龍臣が言う。
「本当に兄妹なのか? あなたみたいなチャランポランと……」
「兄は昔からチャランポランよ?」
「ひでぇな、なんで急に悪口言われなきゃいけないんだ?」
「赤に注意らしい」
「え?」
「四宮が占ってくれたぞ。今日は赤に注意」
「赤ってどう考えたって、あなたのことだろう? 面倒ごと起こす人間はちょっと御免蒙る……」
「いやいやいや! 俺に限らないだろう。夜月は? 赤じゃないのか?」
「あの人は、臙脂色だろ」
「ええ? 何色だって? 聞いたこともない」
「赤といえば……」
龍臣が、一乃と明蘭を見る。
「まぁ……」
「五宮さんね」
「え、2人からもそう言われるの? 俺が注意なの?」
「あっははは、ええやん。仲良しやね」
奈取が腹を抱える。
「……もういいよ」
夜月が奈取に言った。
「え? ああ、もう帰る? まだ終わってへんのやけど」
「じゃあ、時間稼ぎしてあげる」
「お、頼もしいやん」
夜月が奈取の前に立った。
真っ直ぐ、4人を見る。
臙脂色の帯についている鈴が揺れる。
それを見た一乃が言った。
「あなたでしたか」
「朝晴さんの聞いてる音は」
「!?」
朝晴が夜月を見た。
驚きの表情をしている。
が、直ぐに表情を戻した。
「自分1人でいけるん?」
「無理。奈取が半分、相手して」
「……やっぱ、そうなるんやな」
奈取が腰をさする。
「夜月は? どっちがええの? お兄ちゃんとやる?」
「やる訳ない」
「はいはい」
奈取が両手をパンッと叩いた。
一乃・明蘭の2人と、龍臣・朝晴の2人の間に薄い光の壁が生まれる。
「!」
龍臣が壁を触ってみると、バチッと弾かれてしまった。
一乃が壁に近づく。
「朝晴さん、もう少しだけ待っててください」
「一乃ちゃん……」
龍臣が術符のへばりついた宝刀を持って言った。
「よりによって、赤色と一緒か……」
「そう言うな……」
朝晴が龍臣の持つ刀を見る。
「それ……大丈夫なのか?」
「分からない、取れるものなら取りたい」
「分かった」
後ろから声がして、龍臣と朝晴は振り返った。
塀の上に人影がある。
「三宮」
凪が、塀から飛び降りた。
「いつ来たんだ?」
「……ごめん、今、来た……」
「これ、取ればいいんだね?」
凪が宝刀を見る。
「ああ、出来るのか?」
「うん……たぶん」
龍臣が宝刀を両手に持った。
凪が両手で1つ印を結ぶ。
ふわりと風が生まれる。
張り付いていた術符が、動き出した。
徐々に端から剝がれていき、風と一緒に舞い上がる。
全ての術符が剥がれ、頭上に上がる。
凪が結んでいた印を解き、右手を奈取に向かって振った。
次の瞬間、頭上に舞い上がっていた術符が奈取を目掛け勢いよく飛ぶ。
当たる瞬間、奈取は右手だけ横に振り、飛んできた術符を全て弾いた。
ハラハラと術符が奈取の足元に落ちていく。
「……」
「……奈取さんか、やっかいだね」
「自分の方が面倒やろ。凪里」
凪が奈取を見た。




