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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第4章
58/88

1話③


 春が来る。

 気温も朝から緩く上がり、羽織をしていなくても過ごせるくらいだ。

 桜の蕾もだんだんと大きくなり、少し顔を出している花びらたちが淡い桜色に染まっている。


 「星の宮」の正面玄関から、出た5人一行は、そのまま正門をくぐり東側へ歩き出した。

 道横に流れる用水路には、水がキラキラ流れている。

 時折、小さな魚も見えた。


 「星の宮」の東隣は、林が広がっており、所有者がいないのか、荒れ放題になっている。

 雪が解けた今、踏み入るには苦労しないが、奥まで進むと迷子になりそうだ。


「初めて来たわ」

 明蘭が木を見上げながら言った。

「こんな所、誰も来ないわな」

 朝晴が応えた。



 林に入ると、辺りが一気に暗くなる。

 所々、地面から木の根っこが飛び出していた。

 注意しないと、転んでしまいそうだ。


「特段、変なところはないな」

 龍臣が辺りを見渡して言う。

「凪はなにか分かるか?」

 朝晴の言葉に、凪は目を細めた。

 青い眼が木々を見ていく。


「……ううん、何もないかな」

「そっか……」


「きっと"調査"だけじゃないわよね……今日だけで任務が終わるはずないものね?」

 明蘭は考えながら言った。

「それはそうだな……」


 朝晴が西側を見る。

 木々の隙間から「星の宮」の塀が見えた。


 以前、この林付近で巨大な妖が現れ、「星の宮」の結界を歪ませる事態が起きた。

 あれは、紛れもない。

 妹の、作ったものだ。

 懐かしい感触がしたのを覚えている。


 妹はここに来たのか?



 あの後、凪と一緒にこの林に来た。


 なにか痕跡がないかと。

 

 もう、半年も前の話だ。

 あの時は、なにも見つけられなかった。


 だから今日も――


 ?


「あれ?」

「どうした? 五宮?」


「あそこ……」

 朝晴が塀の方へ近づいていく。

 他の人も不思議だと付いて行った。


 薄く汚れた白い塀。

 何か書いてある。

 

 半年前に来た時は何も無かった。

 無かったはずだ。


「どうしたの?」

 明蘭が近寄って来た。

 どれどれ、と塀の壁を見る。

「なにこれ? 落書き?」


 墨汁のようなもので壁に絵が描いてある。

 木? 花?

 2本の縦棒が描かれ、上の方に丸のような泡のような線が描かれていた。

「凪……前、こんなのあったか?」

「ううん……あの時はなかったはず……」



「?」

 一乃が振り向いた。

「どうした? 一乃」


 林の奥を凝視している。

「……誰かいます」


 風が抜ける。


 耳がざわつく。


 壁を見ていた朝晴が振り向いた。


 臙脂色の肩まである髪を流し、こちらを見ている女性が1人。


 息を飲んだ。


 忘れもしない。

 自分が置いて来たのだ。


 見るのは11年ぶりだ。

 あの頃となにも変わっていない。

 髪も、目も、顔立ちも。

 


「…………夜月(よづき)


 朝晴がポツリと呟いた。

「え――?」

 凪が反応する。


 臙脂色の女性がくるりとその場で回る。

 人差し指を立て、口に近づけた。

 フッと浮かび上がり、風が通ると同時にいなくなってしまった。


「……」


 龍臣が、女性がいた場所に走る。

 何もない。

 ただ、風だけが通り過ぎていた。




お読みいただきありがとうございました。

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