3話③
母は「星の宮」に自分を預け、どこかに行ってしまった。
「星の宮」に来た時、面倒を見てくれたのは珍しい物好きの当時の三宮だった。
俺の眼を見て、よく観察していた。
いい人ではあったが、変な人だった。
あの人は、みんなが知らないような術を発明するのが好きだった。
今はもうなくなったが、あの頃は教育係があった。その担当を椎名様がしていた。
椎名様は優秀だったが、あまり親しい友人を作るような人間ではなかった。
一宮様しか友達がいなかったんじゃないかと思う。
そんな一宮様は不思議な人で、俺の眼を見て、「おもしろいね〜」とよく言っていた。
―――
夜。
月明かりが三宮の部屋を照らしている。
一乃は何枚もの紙に二重丸を描いていた。
凪は、本棚から本を取っては開き、取っては開きを繰り返している。
作業を終えた凪は一乃のそばに寄って来た。
「……前の三宮様から教わったんだけど」
「力っていうのは、与えることも出来るし、奪うことだって出来るんだよ。大きくさせたり、小さくさせたりもね」
「面倒な術式がいる時もあるけど……。一宮、手を出してみて」
「?」
一乃が二重丸の描かれた紙の上に右手を広げて出してみる。
「一宮が思う、一番小さな力で光らせてごらん」
一乃が手に集中する。
紙の、真ん中に書かれた丸に光が灯る。
光は次第に広がり、外側に描かれた丸のからも広がる。
凪が一乃の手の上に、自身の手を優しく乗せた。
「あ……」
光が縮んでいく。
外側の丸まで光が小さくなった。
「一宮、感覚をつかんでみて。維持してみるんだ」
「……」
凪がゆっくり、手を離す。
すると、丸の線上で揺れていた光が、瞬く間に紙からあふれ出た。
凪がしゃがみこむ。緑色の眼が見えた。
「まぁ、慣れもあるから……難しかった?」
「はい」
「そうだよね」
「……やります」
「その意気だ」
「あ、昼間のことだけど……」
「はい」
「きっと、結界が不完全なんだろうね」
「?」
「……たぶん」
凪が言いにくそうに、言う。
「きっと、なにも聞かされずに受け継いだんじゃないかな? ……正式に受け継いでいないというか……」
「……」
「まぁ、それでいても、一宮のせいじゃない。誰が受け継いでも、こうなるよ。あの人は……一宮様はすごい人だったからね」
「俺たちが一宮家の結界に頼りきっているのが原因だ」
「どうすれば……」
「まずは、作られた式の解読からしなきゃだね」
「……」
「一緒にやろう。俺も興味あるし、それと……」
「やり方も知らずに、これだけ効果を発揮出来ているんだ。すごいことだよ」
一乃が凪を見る。
「勘がいいんだろうね」
布の下から、優しい笑顔が見えた。
お読みいただきありがとうございました。
少しでも気になった方は、いいね、ブックマークして頂けると励みになります。




