2話②
すっかり日が落ち、廊下の行灯に明かりがともる。
人の往来も少なくなり、「星の宮」は静かな時間を過ごしていた。
三宮の部屋で一乃が申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。嫌でしたか?」
その言葉に凪が首を振った。
「ううん、久しぶりにみんなに会えてよかったよ。椎名様には……後で謝ろう……」
凪の眼を、じーーーーーと見る一乃。
「やめて……恥ずかしいよ」
どんどん色が緑色から橙色に変わっていく。
その様子を見て一乃が言った。
「思っていたのですが……凪さんの眼は、感情の変化で変わっているのでしょうか?」
「……そうだね、そうらしい。自分の眼を見ることが出来ないからね。よく分からないんだけど。……今は何色?」
「橙色です」
「橙か……」
うーんと悩む凪。
「……それはいいとして、一宮、夜にしか力が使えないと言ったけど、他に条件はある?」
「よく分かりません……水があると力は使いやすいです」
「使いやすい? そっか……」
「あと……夏の祭りの時に、「星の宮」の外に行きました。その時、力が上手く使えなくて……」
「使えなかったの?」
「使えなかった……ではなくて。使えはするのですが、思ったよりも使いにくかったです」
もしかしたら……と続ける一乃。
「「星の宮」にいるほうが、いいのでしょうか?」
少しだけ考えた凪が頷く。
「……その通りだと思う。ここは一宮様の結界の中だからね。なにかしら影響はあると思うよ」
「……」
一乃が無造作に置いてある本の山に目を移した。
1つの本が目に留まる。
この字は……
先生だ……
凪が一乃に近づいてきた。
「ああ、それは昔、一宮様にもらったんだよ。これで勉強してほしいって」
一乃が本を見る。
久しぶりに見る、あの人の字。
書き癖そのままで書かれている。
そういえば、文字を教えてくれたのは先生だった。
「……」
凪が一乃の様子に気がついた。
(そうか……この子にとっては一宮様が唯一の肉親だったのか)
「一宮。これ、見ていて」
凪が取り出したのは花の形に切られた和紙。
手のひらに置いて、眼を閉じた。
和紙が、少しずつ端から光っていく。
完全に光ったところで凪が眼を開け、フッと優しく息をかけた。
すると、光る和紙から無数の小さな黄色い花が出てくる。
「……綺麗」
「一宮もやってみよう。そんなに難しくないから」
「……」
手のひらに、花の形をした和紙をもらう。
「集中して、花を想像するんだ。小さな……」
一乃が眼を閉じた。
集中する。
先生も言っていた、力の流れに集中して想像すると。
和紙が光る。
外側から光り、中心までゆっくりと光が流れていく。
全体に光が行き渡たり一乃が眼を開ける。
手の平から光が溢れた。
ハラハラと白い花が目の前に降る。
牡丹雪みたいだ。
目の前が花で真っ白になった。
気がつくと凪が大量の花で埋まる。
「ご、ごめんなさい」
「あはは、いいんだ。これはこれで面白い。まだ……力の加減が分からないのかも知れないね」
「……」
「大丈夫だよ。慣れもあるだろうし、朝晴も昔、加減が分からなくて、部屋の照明、壊して回ってた時があったよ」
「朝晴さんが?」
「うん。今はもうないだろうけどね」
凪が紙に大きな丸を描いた。
中心にもうひとつ小さな丸を描く。
「一宮、これで修行しよう。この真ん中の丸に力を集中するんだ。んー、どうしようか。火だと危ないから……やっぱり光にしよう。こっちの外側の丸から出ないように紙を光らせてごらん」
凪が紙を一乃に渡した。
「集中力がいるかも知れないけど。諦めずにやってみよう」
「……諦めずに……分かりました」
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