2話 一宮①
母に気持ち悪いと言われた。
あの眼が、他人が自分を見る眼が怖い。
思えば物心ついた時から、他の子とは違うことを気にしていた。
鏡を見るのが怖い。
水面を見るのが怖い。
色の変わる自分の眼が怖かった。
―――
一乃と凪は、三宮の部屋を出た。
久しぶりに部屋から出た凪は、おっかなびっくり周りを見ている。
通りすがりも、不思議な顔をして2人を見た。
凪は少しの音がしただけでも、驚いて一乃の後ろに隠れてしまう。
「大丈夫ですよ」
どちらが年上なのか分からない。
2人は他の重役が待つ一宮の仕事部屋までやって来た。
一乃が部屋の扉を叩いて開ける。
部屋には3人の重役が待っていた。
いつもの男2人の他に、四宮明蘭もいる。
急に3人に会うことなった、凪はびくびくと一乃の後ろに隠れる。
朝晴が心配そうに言った。
「凪……自分より小さい人間の後ろに隠れるのは無理があるんじゃないか? いい大人だろ?」
次に明蘭が不思議そうに言う。
「どうして頭から布を被ってるの? 流行りの着こなし? 前髪も切らずに重めだし……」
最後に龍臣が呆れて言った。
「仕事以外、部屋から出ないのは何故なんだ? そっちの方が困るだろう?」
みんなから、やいのやいの言われ、爆発しそうになる凪。
「ああ、あああああ」
一乃が凪に言った。
「大丈夫です。龍臣さんは優しいですし、明蘭さんは気配り上手な方です。朝晴さんは……いつもあんな感じです」
一乃の何とも言えない、持ち上げに黙ってしまう3人。
「……」
凪がひとまず落ち着いて、扉側の長椅子に座る。
反対の窓側の長椅子に、龍臣、明蘭、朝晴が座った。
一乃は自身の仕事机に寄りかかっている。
傍から見たら、事情聴取を受けているみたいだ。
「で? どうして部屋から出ないんだ?」
まず初めに龍臣が聞いた。
「……あの、特に理由は……」
「困らないのか? 三宮で働いている人間はあなたに話がある時はどうするんだ?」
「……部屋に来てもらってる……」
「それでいいのか」
「……え……ダメなの?」
次に明蘭が凪に聞いた。
「ねぇ、それは流行り?」
「え? えっと……」
「頭の布よ。って……服の一部なの? くっついてるわ」
明蘭は凪にお構いなしに、前に背中に行ったり来たり。
「へぇー! かわいいのね」
「……か、かわいい?」
「ええ、被りたい時に被れるなんて便利だし。帽子を持っていると被らない時は手で持つことになるでしょ?」
「……」
「いいわね」
明蘭のべた褒めに、どう反応していいか分からない凪。
最後に朝晴が聞いた。
「……お前が部屋から出るなんて。一体どうしたんだ?」
凪が一乃をチラッと見る。
「成り行きで……」
「何日ぶりに出たんだ?」
「…………覚えてない」
「あー……そうか……どうだ? 久しぶりの日光は?」
「眩しいよ……眩しすぎる……」
この部屋に入ってきてから、よく窓の外を見ている凪。
龍臣がその視線に気が付いた。
「何かいるのか?」
「……あ、いや……」
「何か飛んでいますね」
一乃が言う。
「??」
一乃が凪を見る。
「見えますよね」
「え……うん……」
一乃に再度言われ、凪がうなづいた。
押しに弱い性格らしい。
「な、何が見えるんだ?」
「なにかは分かりません。黒いモヤにしか見えなくて……」
龍臣の言葉に申し訳なさそうに一乃が答える。
凪が窓の外を見ながら言った。
「あ、鳥の形をした式神だと思う。……かなり強い。誰のものだろう……。ずっと周りを飛んでいるんだ」
凪が言いながら考える。
(二宮、四宮、朝晴は見えないけど一宮には見えるのか……。やっぱり昼間は力がない訳じゃないんだな)
凪の考えを他所に龍臣が一乃に聞く。
「一乃、あの式神が敷地内に入ってきた、もしくはここで生まれた時、なにか感じなかったのか?」
「……いいえ」
「式神くらいの小さいものじゃ感じられないのかな? 俺らは感じられないし、見ることも出来ていない」
「周りを飛んでるって、誰か見ているってこと?」
明蘭が心配そうに言う。
朝晴が凪に言った。
「凪、もっとなにか見えないか?」
「え……そうだな……」
凪が眼を細める。
「ん? あれ俺らの……。ってあれ? ええ!?」
凪の1人寸劇に龍臣が言う。
「おい! 俺らは見えないんだから状況説明しろ!」
「来る! 来るよ!! こっちに来る!」
「は!?」
続いて明蘭が叫んだ。
「み、見えるわ! 黒いものがこっちに来る!」
窓の外を見た朝晴も気づく。
「ちょちょちょ! 大きすぎないか!」
「こっちに突っ込んでくるぞ!」
黒い鳥が部屋目掛けて急降下する。
部屋に入る直前、一乃がなにかに気が付いた。
「あ」
黒い鳥は窓から部屋に突入して来た。
風が巻き上がる。
4人は咄嗟に、その場にしゃがみ込んだ。
かなりの風圧だ。
本棚に仕舞っていた本が揺れる。
机に置いてあった書類が何枚か舞った。
ハラハラと頭上から落ちてくる。
次第に静かになり、4人が顔を出す。
一乃はこんな中、1人で立っていた。
左手を差し出している。
手の上には小さな紫色の鳥が止まっていた。
「あれ……」
朝晴と凪が鳥を見て気がついた。
一乃が4人の方を向いた。
「……様子を見ていただけだそうです」
「は?」
状況が読めない龍臣と明蘭は不思議そうな顔をする。
2人とは打って変わって、朝晴と凪が肩を寄せ合っている。
「……え? ……怒られる?」
「仕事しなさすぎ?」
「こんな演出する人だったか?」
「……相当お怒りなのかな?」
龍臣がたまらずに言った。
「なんなんだ? 分かるなら教えてくれ」
2人の代わりに一乃が答える。
「これは照星さんの伝書鳥です」
「椎名様の??」
一乃が指の上でパタパタする鳥を見る。
それを見た凪が縮こまった。
「心配していたから、見に来た――と言っています」
「心配?」
4人が凪を見た。
「見ないで〜〜〜」
凪はたまらず、布で顔を隠した。
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