1話③
嫌だな。
人前に出るのは昔から嫌いだ。
人といるのも嫌だ。
見ないでほしい。
前髪を長くすれば、眼を見られない。
生き抜く安心材料だった。
「はぁ……」
早く行かないと、椎名様がきっと探しに来る。
次の講義で、みんなの前に立って術を披露しなくちゃいけない。
ついに順番が回って来てしまった。
自分にとっては拷問のようだ。
ずっと庭の隅っこでしゃがみこんでいた。
遠くで、足早に移動する人の音が聞こえる。
講義に行く人かな?
「?」
近くを歩く音も聞こえてくる。
自分には気が付きませんように……
2人いるのか話し声も聞こえてきた。
「今日の講義で発表する奴は誰だ?」
「……あー、凪里だろ?」
「凪里? 三宮にいる?」
「たぶんな」
「……あいつよく分からない奴だよな。暗いし、いつも下向いてるし」
「まぁ、それは言えてるなぁ」
こんな丁度よく自分の噂話を聞くとは思わなかった。
奇跡すぎる。
大正解だと思う。
自分は暗いし、下を向いている。
今もだ。
「そんな事はないさ」
突然、明るい陽気な声が聞こえた。
聞こえる足音も1つ増える。
「え……」
「あ」
2人組が驚いた声を上げた。
「あの子は天才だよ。間違いなくね」
「ほら、行った。行った。講義に遅れたら、照星に怒られるよ?」
2つの足音がパタパタと遠くへ走っていく。
辺りが静かになった。
誰が来たんだろう……
気になって、植木の間から覗いて見てみた。
「お、ここにいた」
急に目の前から男性の顔が出てくる。
「わ!」
驚いて尻もちを付いてしまった。
「ごめん、ごめん。驚かせるつもりじゃなかったんだ」
白髪にメガネをかけた男性がこちらに回って来た。
「はい」
と言って、手を差し伸べてくれる。
手を掴んで引っ張ってもらった。
「凪里も行きな。照星は怒ると怖いよ」
「……知ってます」
「あはは、だよね」
お読みいただきありがとうございました。
少しでも気になった方は、いいね、ブックマークして頂けると励みになります。




