4話②
明蘭は舞台の真ん中で正座をし頭を垂れた。
後ろにいる楽器隊が、各々の楽器を持つ気配を感じる。
緊張と高揚。
舞台下の大広間は、明蘭たちが現れてからシーンと静まり返っている。
笛吹きの息遣いが聞こえた。
一斉に音楽が鳴り響く。
明蘭はその音に合わせ、サッと立ち上がった。
鈴のついた扇を片手に持ち、観客へ目線を送る。
頭についた髪飾りが揺れてきらめいた。
ゆっくりと撫でやかに扇を動かしていく。
見ている者はその艶やかさに魅了された。
舞台で舞う明蘭を横目に、晴蘭と龍臣、環奈の3人は大広間を抜け、廊下にやって来た。
どこも人が多い。
廊下にも庭にも人が溢れている。
3人は周りに聞こえないように耳打ちした。
「松の木の近く……だったな」
「はい」
「松……たくさんあるけどね……」
庭には松林のように松が植えられている。
おまけに今日ほど人が多い日はない。
松の近くにいる人間が全員怪しく見えてくる。
「秋都さん、連れてくれば良かった?」
「見つかったら逃げられて終わりだからな。置いて来て正解だ」
「頼りの綱はこれしかありませんよ?」
龍臣が持っている小さな鈴。
先程、秋都が持っていた物だ。
揺らしても音は鳴らない。
「ここにいたか」
不意に声がした。
「げっ」
環奈が心底嫌そうな声を出す。
龍臣が環奈の目線を追ってみた。
先程、見た男が立っている。
「兄さん……」
げんなりした顔で環奈が言った。
「今から舞が始まるぞ? 見に行かないのか」
「私は用事があります」
「男を2人連れて? 一宮もいないじゃないか。主人を置いて来ていいのか?」
「うるさいですね。私には私のやる事があるんです。そもそも兄さんだって、なぜ外にいるんですか? 屋台ならあっちですよ」
環奈がやれやれと向こう側を指差す。
「俺にだってやる事がある。屋台なんか行ってる場合じゃない」
「だったらさっさと行って来てください。……どうして会いに来たんですか」
「あまり出しゃばった行動はするなよ?」
「はい?」
「俺は椎名様の命を受けて来ている。……怪しい奴がいたらすぐに言え」
「はいはい、そうですか…………怪しい奴?」
環奈が兄を見た。
「星の宮」には、複数の一族が関わりを持っている。術者、神事、諜報活動……。数えたらキリがないが、志野家もそのうちの1つ、諜報活動をしている。
忍者のような一族と言われる所以はそこにあった。
環世の言ったことに、引っ掛かる点がある。
椎名照星が命を出していることは、かなり重要な案件だ。
それに怪しい人物となると――
「お前も追っているのか?」
「……」
「俺は俺のする事をやる。邪魔はするなよ?」
そう言うと、環世はいなくなった。
人混みに溶け込むのが上手い。
椎名照星は、明蘭が「月の杜」から狙われていることを知っている。
だが、今さっき、明蘭が移動の術で飛ばされたことは知らないはずだ。
それに、飛ばされる前から兄はこの会場にいた。
椎名様は、誰を捕まえようとしているのだろう。
「どうする? 愛想もない奴から、邪魔するなって言われたぞ」
龍臣が環奈に聞いた。
「……愛想がないのはそっくりでしたよ」
「ああ?」
「冗談です。もちろん探します。兄が誰を探しているのか分かりませんし」
そうだろう、と龍臣が舞台を見た。
「舞台を狙うなら、見える位置にいるはずだ。そう遠くはない」
「それもそうだねー」
晴蘭が舞台の方を見る。
優雅に踊っている明蘭。
ひさびさに見た。
あんな楽しそうな彼女を。
それなら、
「いっちょやるか」
晴蘭が右足で地面を2回叩いた。
叩いた地面から扇が出てくる。
「ええ?」
「明蘭の扇」
「いいのか?」
「いい。今、明蘭は俺の扇を使ってる」
「? なんでだ?」
龍臣の問いに晴蘭が笑ってみせる。
「2人で1つだからね」
晴蘭が扇を構えた。
「この鈴と同じ物を持っている人を見つけたいんだ」
扇を自身の顔の前に持つ。
目を瞑って、深呼吸した。
遠くで舞台の音楽が聞こえる。
子ども頃から聞き慣れた音。
昔は2人で踊っていた。
自分はあそこには立てない。
姉がやると決めた時、自分も決意した。
守らなきゃいけない。
昔から姉の方が優秀だった。
いつも明るくて、男気があって、かわいいもの好きで、少しだけ夢見がち。
弱音を吐かないように、強がるところも昔から変わっていない。
ゆっくり青蘭が目を開ける。
「見つけた」
扇を下ろした晴蘭が環奈に顔を向ける。
「環奈さん、静かに近づいて捕まえられる?」
「もちろんですよ」
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