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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第2章
35/88

4話②


 明蘭は舞台の真ん中で正座をし頭を垂れた。

 後ろにいる楽器隊が、各々の楽器を持つ気配を感じる。

 緊張と高揚。

 舞台下の大広間は、明蘭たちが現れてからシーンと静まり返っている。

 

 笛吹きの息遣いが聞こえた。

 一斉に音楽が鳴り響く。

 明蘭はその音に合わせ、サッと立ち上がった。

 鈴のついた扇を片手に持ち、観客へ目線を送る。

 頭についた髪飾りが揺れてきらめいた。


 ゆっくりと撫でやかに扇を動かしていく。

 見ている者はその艶やかさに魅了された。




 舞台で舞う明蘭を横目に、晴蘭と龍臣、環奈の3人は大広間を抜け、廊下にやって来た。

 どこも人が多い。

 廊下にも庭にも人が溢れている。


 3人は周りに聞こえないように耳打ちした。

「松の木の近く……だったな」

「はい」

「松……たくさんあるけどね……」

 庭には松林のように松が植えられている。


 おまけに今日ほど人が多い日はない。

 松の近くにいる人間が全員怪しく見えてくる。


「秋都さん、連れてくれば良かった?」

「見つかったら逃げられて終わりだからな。置いて来て正解だ」

「頼りの綱はこれしかありませんよ?」


 龍臣が持っている小さな鈴。

 先程、秋都が持っていた物だ。

 揺らしても音は鳴らない。



「ここにいたか」

 不意に声がした。


「げっ」

 環奈が心底嫌そうな声を出す。

 龍臣が環奈の目線を追ってみた。


 先程、見た男が立っている。


「兄さん……」

 げんなりした顔で環奈が言った。


「今から舞が始まるぞ? 見に行かないのか」

「私は用事があります」

「男を2人連れて? 一宮もいないじゃないか。主人を置いて来ていいのか?」

「うるさいですね。私には私のやる事があるんです。そもそも兄さんだって、なぜ外にいるんですか? 屋台ならあっちですよ」

 環奈がやれやれと向こう側を指差す。


「俺にだってやる事がある。屋台なんか行ってる場合じゃない」

「だったらさっさと行って来てください。……どうして会いに来たんですか」

「あまり出しゃばった行動はするなよ?」

「はい?」

「俺は椎名様の命を受けて来ている。……怪しい奴がいたらすぐに言え」

「はいはい、そうですか…………怪しい奴?」

 環奈が兄を見た。


 「星の宮」には、複数の一族が関わりを持っている。術者、神事、諜報活動……。数えたらキリがないが、志野家もそのうちの1つ、諜報活動をしている。

 忍者のような一族と言われる所以はそこにあった。

 

 環世の言ったことに、引っ掛かる点がある。

 椎名照星が命を出していることは、かなり重要な案件だ。

 それに怪しい人物となると――


「お前も追っているのか?」

「……」

「俺は俺のする事をやる。邪魔はするなよ?」

 そう言うと、環世はいなくなった。

 人混みに溶け込むのが上手い。



 椎名照星は、明蘭が「月の杜」から狙われていることを知っている。

 だが、今さっき、明蘭が移動の術で飛ばされたことは知らないはずだ。

 それに、飛ばされる前から兄はこの会場にいた。



 椎名様は、誰を捕まえようとしているのだろう。



「どうする? 愛想もない奴から、邪魔するなって言われたぞ」

 龍臣が環奈に聞いた。

「……愛想がないのはそっくりでしたよ」

「ああ?」

「冗談です。もちろん探します。兄が誰を探しているのか分かりませんし」



 そうだろう、と龍臣が舞台を見た。

「舞台を狙うなら、見える位置にいるはずだ。そう遠くはない」

「それもそうだねー」

 晴蘭が舞台の方を見る。

 優雅に踊っている明蘭。


 ひさびさに見た。

 あんな楽しそうな彼女を。


 それなら、


「いっちょやるか」


 晴蘭が右足で地面を2回叩いた。

 叩いた地面から扇が出てくる。

「ええ?」

「明蘭の扇」

「いいのか?」

「いい。今、明蘭は俺の扇を使ってる」

「? なんでだ?」


 龍臣の問いに晴蘭が笑ってみせる。


「2人で1つだからね」



 晴蘭が扇を構えた。

「この鈴と同じ物を持っている人を見つけたいんだ」

 扇を自身の顔の前に持つ。

 目を瞑って、深呼吸した。


 遠くで舞台の音楽が聞こえる。

 子ども頃から聞き慣れた音。

 昔は2人で踊っていた。


 自分はあそこには立てない。

 姉がやると決めた時、自分も決意した。

 守らなきゃいけない。


 昔から姉の方が優秀だった。


 いつも明るくて、男気があって、かわいいもの好きで、少しだけ夢見がち。

 弱音を吐かないように、強がるところも昔から変わっていない。


 ゆっくり青蘭が目を開ける。

「見つけた」


 扇を下ろした晴蘭が環奈に顔を向ける。

「環奈さん、静かに近づいて捕まえられる?」

「もちろんですよ」




お読みいただきありがとうございました。

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