3話③
今日の「星の宮」の廊下は飾りつけがされてとても明るい。
提灯が風に揺れ、奥の廊下の先まで見える。
人通りも多く、はぐれないように歩くのが少し大変だ。
「一乃ちゃん、手つなぐ?」
「……やめといた方がいい。後で怒られるぞ」
晴蘭の提案を、朝晴が笑って返す。
「誰に?」
「さあな」
大広間へたどり着くと、人がごった返していた。
来賓者へ挨拶する者、屋台の宣伝をしている者、屋台で買って来た食べ物を持っている者。
3人ははぐれないように、くっつきながら、舞台の袖までたどり着いた。
龍臣が立っている。
「あれ? もういたの?」
晴蘭が意外だと龍臣に言った。
「父上がいらしていてな。挨拶がてらここに来たんだ」
「お父上?」
「ああ、あそこに座っている」
龍臣の視線の先には、来賓者用の椅子に座った人物が見えた。
黒い着物を着た男性、隣の人物と会談している。
「へぇー、そっくりだ」
「二宮も成長したら、ああなる訳だな」
晴蘭と朝晴が楽しそうに言う。
「おい、見せ物じゃないぞ」
龍臣が後ろからピシャリと言った。
「すみません〜〜」
人混みの中から、やっとのことで出てきたのは環奈。
疲れ切った様子で、こちらにやって来た。
「すんごい人なんですもん。みなさんを見つけるまで苦労しました……」
せっかく綺麗に後ろで結んだ髪がひょこひょこ飛び出ている。
環奈が何かに気付いたように声を上げた。
「あ! 一乃様、申し訳ございません。少し外しますね……」
会ったばかりだというのに、環奈が廊下の方へそそくさといなくなる。
「? どうしたんだ?」
それと同時に声がした。
「一宮」
その声に全員が目線を送る。
そこには1人の青年が立っていた。
「久しいな。相変わらず白い」
青年は周囲をぐるりと見ると一乃に尋ねた。
「妹は?」
「環奈なら席を外していますよ」
「……そうか。分かった」
環奈の兄。志野家の当主――志野環世。こんな所で見るとは思いもしなかった。
龍臣が気づかれないように見る。
相当修行したのだろう。着物を着ていても、鍛えた体つきが伺える。
左腰に短剣を携えていた。
「時間を取らせたな。失礼する」
手短に挨拶し、環世はいなくなった。
忍者とはあながち間違いではないのかもしれない。
人混みに混じり、煙のように見えなくなる。
「いなくなりました?」
環奈がひょっこり廊下から顔を出した。
「うん」
ふーっと手で額を拭いながら出てくる。
環奈に龍臣が言った。
「挨拶ぐらい、してもいいんじゃないか?」
「嫌ですよ。話し出したら嫌味が止まらないんですから」
龍臣が考える。
確かに、自身の義弟――雪臣と話せ。と言われたら正直、気が乗らない。
出来ることなら、会話を避けたい。
同じ心境なのかと、1人で合点した。
一乃がのんびり2人を見る。
兄弟のいない自分にはよく分からないが、合う合わないがあるのだろう。
環奈の兄のことは、昔からよく聞いていた。
「おわ。久しぶりやね」
ふと横から声がした。
目線を左に向ける。
周りの声が遠くなったように感じた。
横に立っていた人物は笑ってこっちを見ている。
「奈取さん……」
一乃が呟いた。
春に起きた”動物襲撃事件”。事件を起こした張本人が、そこに立っていた。
奈取が近づく。
「覚えてくれとったん?」
「どうしてここに……」
周りの声が遠い。
なぜ、みな、奈取に気づかないのか。
2人だけの空間にいるようにさえ感じる。
「お祭りやからね。”遊び”に来たんや」
「遊び?」
「楽しんどる? せっかくなんやし、いっぱい食べや」
「……」
キョトンと自身を見る一乃に奈取が聞いてみる。
「もしかして、一宮はん、お祭り初めてか?」
「はい」
「そうなんや……じゃあいいとこ教えたる」
そう言って奈取が一乃の手を取る。
「え?」
フッと足が浮いた。
その瞬間、一乃は目を見張る。
外だ。
庭の端に置いてある大きな石の上に降り立った。
「ここ、お気に入りねん」
奈取が指を指す。
廊下の提灯の明かりが揺れている。
その下を行き交う人。
奥には、先ほどまでいた大広間が見える。
目線を左に逸らすと、並んだ屋台も見えた。
光が揺れ、とても綺麗だ。
人の熱気も感じる。
「綺麗……」
「せやろ?」
一乃の言葉に嬉しそうにする奈取。
「本当はこのまま連れて行きたいんやけどな」
「え」
「うそうそ。……まぁ楽しんだらええわ、ほな」
と言って、奈取が一乃の手を離す。
また足が浮いたように感じた。
目を開けると、大広間に戻って来た。
環奈も龍臣も朝晴も、晴蘭もみんないる。
夢だったのか、不思議な感覚を覚えた。
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