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星の宮の妖祓い  作者: 春伊
第2章
31/88

3話③


 今日の「星の宮」の廊下は飾りつけがされてとても明るい。

 提灯が風に揺れ、奥の廊下の先まで見える。

 人通りも多く、はぐれないように歩くのが少し大変だ。

「一乃ちゃん、手つなぐ?」

「……やめといた方がいい。後で怒られるぞ」

 晴蘭の提案を、朝晴が笑って返す。

「誰に?」

「さあな」


 大広間へたどり着くと、人がごった返していた。


 来賓者へ挨拶する者、屋台の宣伝をしている者、屋台で買って来た食べ物を持っている者。

 3人ははぐれないように、くっつきながら、舞台の袖までたどり着いた。

 龍臣が立っている。


「あれ? もういたの?」

 晴蘭が意外だと龍臣に言った。

「父上がいらしていてな。挨拶がてらここに来たんだ」

「お父上?」

「ああ、あそこに座っている」


 龍臣の視線の先には、来賓者用の椅子に座った人物が見えた。

 黒い着物を着た男性、隣の人物と会談している。


「へぇー、そっくりだ」

「二宮も成長したら、ああなる訳だな」

 晴蘭と朝晴が楽しそうに言う。

「おい、見せ物じゃないぞ」

 龍臣が後ろからピシャリと言った。


「すみません〜〜」


 人混みの中から、やっとのことで出てきたのは環奈。

 疲れ切った様子で、こちらにやって来た。

「すんごい人なんですもん。みなさんを見つけるまで苦労しました……」

 せっかく綺麗に後ろで結んだ髪がひょこひょこ飛び出ている。


 環奈が何かに気付いたように声を上げた。

「あ! 一乃様、申し訳ございません。少し外しますね……」

 会ったばかりだというのに、環奈が廊下の方へそそくさといなくなる。


「? どうしたんだ?」

 それと同時に声がした。


「一宮」

 その声に全員が目線を送る。

 そこには1人の青年が立っていた。


「久しいな。相変わらず白い」

 青年は周囲をぐるりと見ると一乃に尋ねた。

「妹は?」

「環奈なら席を外していますよ」


「……そうか。分かった」

 環奈の兄。志野家の当主――志野環世(かんぜ)。こんな所で見るとは思いもしなかった。

 龍臣が気づかれないように見る。

 相当修行したのだろう。着物を着ていても、鍛えた体つきが伺える。

 左腰に短剣を携えていた。


「時間を取らせたな。失礼する」

 手短に挨拶し、環世はいなくなった。

 忍者とはあながち間違いではないのかもしれない。

 人混みに混じり、煙のように見えなくなる。


「いなくなりました?」

 環奈がひょっこり廊下から顔を出した。

「うん」

 ふーっと手で額を拭いながら出てくる。

 環奈に龍臣が言った。


「挨拶ぐらい、してもいいんじゃないか?」

「嫌ですよ。話し出したら嫌味が止まらないんですから」

 

 龍臣が考える。

 確かに、自身の義弟――雪臣と話せ。と言われたら正直、気が乗らない。

 出来ることなら、会話を避けたい。

 同じ心境なのかと、1人で合点した。



 一乃がのんびり2人を見る。

 兄弟のいない自分にはよく分からないが、合う合わないがあるのだろう。

 環奈の兄のことは、昔からよく聞いていた。



「おわ。久しぶりやね」

 ふと横から声がした。

 

 目線を左に向ける。


 周りの声が遠くなったように感じた。


 横に立っていた人物は笑ってこっちを見ている。


奈取(なとり)さん……」


 一乃が呟いた。

 

 春に起きた”動物襲撃事件”。事件を起こした張本人が、そこに立っていた。

 奈取が近づく。

「覚えてくれとったん?」

「どうしてここに……」


 周りの声が遠い。

 なぜ、みな、奈取に気づかないのか。

 2人だけの空間にいるようにさえ感じる。

「お祭りやからね。”遊び”に来たんや」

「遊び?」

「楽しんどる? せっかくなんやし、いっぱい食べや」

「……」


 キョトンと自身を見る一乃に奈取が聞いてみる。

「もしかして、一宮はん、お祭り初めてか?」

「はい」

「そうなんや……じゃあいいとこ教えたる」

 そう言って奈取が一乃の手を取る。

「え?」

 フッと足が浮いた。

 

 その瞬間、一乃は目を見張る。

 

 外だ。

 庭の端に置いてある大きな石の上に降り立った。

「ここ、お気に入りねん」

 奈取が指を指す。


 廊下の提灯の明かりが揺れている。

 その下を行き交う人。

 奥には、先ほどまでいた大広間が見える。

 目線を左に逸らすと、並んだ屋台も見えた。


 光が揺れ、とても綺麗だ。


 人の熱気も感じる。


「綺麗……」

「せやろ?」

 一乃の言葉に嬉しそうにする奈取。


「本当はこのまま連れて行きたいんやけどな」

「え」

「うそうそ。……まぁ楽しんだらええわ、ほな」

 と言って、奈取が一乃の手を離す。


 また足が浮いたように感じた。


 目を開けると、大広間に戻って来た。

 環奈も龍臣も朝晴も、晴蘭もみんないる。


 夢だったのか、不思議な感覚を覚えた。




お読みいただきありがとうございました。

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