2話④
明蘭は四宮家の実家にいることに気が付いた。
なぜ……
静かだ。
廊下には自分以外、誰もいない。
仕方がないので、家の中を歩いてみることにした。
台所に、居間、最後に玄関を抜け、外に出てみる。
誰かいる。
小さな子どもがいる。
明蘭に気が付いた。
元気よく手を振る。
「明蘭! こっちこっち!」
晴蘭だ。
明蘭は大きく目を見開いた。
けれど、昔の、子どもの姿をしている。
咄嗟に自身の体を見た。
今の姿だ。
目の前の晴蘭は小さくなってしまっている。
明蘭の口が勝手に動いた。
「待って! 晴蘭!」
明蘭はまた驚いた。意識していないのに口が動く。
「早く、早く!」
晴蘭に急かされ、明蘭がそちらへ歩き出した。
なぜか、扇を持っている。
舞用の扇。
晴蘭とは別に2人の人物にも気が付いた。
「お父様、お母様」
両親が長椅子に座っていた。
2人とも楽器を持っている。
「来た来た! ねー早く練習しよう?」
晴蘭が2人に言った。
「はいはい」
嬉しそうに言ったのは母だ。
母が横笛を構える。
隣で父が小さな太鼓を鳴らした。
拍子に合わせ、母が笛を吹く。
その音に乗せ、晴蘭が扇を広げた。
綺麗だ。
あの頃から、晴蘭は器用な子だった。
自分は努力しないと追いつけない。
晴蘭の器用さが羨ましかった。
晴蘭がこっちを見る。
「明も」
手を差し出した。
明蘭の手が自然に伸びる。
舞う晴蘭の手を握った。
その時、
「!」
視界が急に暗くなる。
体が一気に回るような感覚がして、目が回る。
そうだ。
本当はずっと、このままでいたかった。
家族4人で。
許嫁なんて興味もない。
ずっと晴蘭と舞っていたかった。
明蘭は自分の足が地面についていることに気がついた。
目を開ける。
正面に晴蘭の顔があった。
大人びて、立派になった、毎日よく見る顔。
「明! 大丈夫?」
「……ええ」
「願いの泉とはよく言ったものだな」
「そうですよ。過去の記憶を出してるだけです」
「どういう原理かは分からないが、あまり気持ちの良いものではないな」
龍臣と環奈が、許嫁の秋都に寄ってたかって文句を言っている。
過去の記憶……。
確かに家族でいた時の記憶。
自分は、あの過去に戻りたいと"願った"のか。
小さくため息をつくと、秋都に近づいた。
秋都はまた、申し訳なさそうな顔で、首を垂れている。
「秋都さん、この『願いの泉』はどうやって手に入れたの?」
「……買い物に行った時に、おもしろい物があるからと……使用人が買った物をもらったんだ」
「……また使用人ね」
明蘭は呆れた声を出す。
そして、息を大きく吸い込み、拳を出しながら言った。
「人から受けた物じゃなくて、自分で考えたものを持ってきなさい!」
「は、はいぃぃ!!」
情けない声を出した秋都はしょんぼり小さくなる。
「一乃あの箱を最初に見た時なにか感じたか?」
「いいえ」
「そうだよな……」
明蘭が口を開く。
「あの蓋が開いた時、以前、大広間で秋都さんから頂いた箱の中身と同じ気配を感じたわ」
「俺もだ。だとすると、白い煙は妖の類いということになるな」
「気づかなかったという事は……」
「……結界があるから外から「星の宮」は入れない。堂々と持ってくれば俺たちが気配に気づく。……術を組んだ箱の中に入れて持ってくれば気付かれず目標の至近距離まで運べる……」
龍臣の発言に環奈が恐る恐る言う。
「それって……今も、どこかで見ているんじゃ……」
「……」
大広間の近くには人の気配は感じられない。
「秋都さんの使用人、すっごく怪しいですね」
「え、ええ!?」
「だって、どっちも使用人からもらった物なんですよね?」
「そ、そうですけど……」
環奈の発言に慌てる秋都。
「今、考えても分からないわ。……とりあえず、秋都さんは、その使用人に注意して。絶対に!」
「は、はい……」
おどおどしながら返事をする秋都。
明蘭が秋都を玄関まで送っていくと言った。
大広間に残った晴蘭が環奈に言った。
「今、関係ないけど……環奈さんってどこの出身?」
「? 志野家です」
「志野家? 忍者みたいな一族の?」
「ま、まぁ、そう言われているなら、そうです」
「……だとしたらやっぱり……」
晴蘭が腕を組みながら環奈を見た。
「環奈さんが持ってる、その刀って」
真面目な顔で晴蘭が言った。
「代々、男が使う物じゃなかった?」
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