2話③
(ここ……)
一乃は縁側にポツンと座っていた。
見覚えのあるこの景色は、「星の宮」に来る前まで暮らしていた家の離れ。
後ろには、本を読んだり、布団を敷いて寝ていた6畳の畳部屋。
前には、だだっ広い庭がある。
時刻は夜。
暗い空には星がチラチラ光り、少し欠けた月も見えた。
静かで、虫が庭のどこかで鳴いているのが聞こえる。
一乃は懐かしい景色をボーっと眺めた。
「一乃」
庭の奥から声がした。こちらに近づいてくる足音がする。
忘れもしない。
この声は、
「先生」
木の陰から、白髪でメガネをかけた人物が出てきた。
「やぁ。また来たよ」
親しげに、一乃に手を振った。
白髪の人物の後ろから、もう一人出てきた。
「照星さん」
一乃の反応に首をかしげる照星。
「ん? どうした? 驚いた顔して」
照星だ。
「星の宮」の筆頭として、忙しくしている照星。今より若い。
一乃は首を横に振った。
「一乃、今日は、ちょっと力を試してみようよ」
「紅葉、それは早くないか?」
紅葉と呼ばれた人物が照星を見る。
「いいのいいの、ものは試しだ。やってみようよ、誰もいない今がチャンスだよ」
照星が、大きなため息をついた。
「ということで、一乃、力を使ってみよう」
「……でも先生、どうすればいいのか分かりません」
一乃の動きが止まった。
そうだ。あの時も、同じ発言をした。
というより、口が勝手に動く。
そんな一乃のことは気にせず、紅葉が優しく一乃の手を握る。
「いいかい? 深く、難しく考えちゃダメだ。そうだなぁ……体の中に血液が回っているように、力も巡っている。川の流れを想像して? 体の奥底から、湧き上がるような」
一乃の手のひらに、小さな白い花を置いた。
ガラスで出来ており、部屋の電気を反射してキラリと光る。
「この花に一気に力を集中させるんだ。なんでもいいよ。……光れ! とか」
紅葉が両手を広げて言った。
一乃が小さな花を優しく握る。
集中。
川の流れ……。体を巡る……。
何かが体中を駆け巡る感覚がある。
それは、どんどんと手のひらの花に集中していく。
熱い。
溢れんばかりの力を、一乃が解き放った。
「!」
目の前が見えなくなるほどの光が放たれる。
「こ、これは……」
照星が驚愕の声をこぼした。
一乃の手のひらにある花は、まばゆいばかりの光があふれ出る。
小さな太陽があるかのようだ。
「い、一乃! 止めて止めて!」
「……止め方、分かりません」
「想像して! 力を止める。堰き止める」
一乃が目を閉じる。
周りに広がる光が徐々に小さくなってきて、一乃の手に集約していく。
目を開け、両手を開くと、ほんのり光る白い花があった。
「これはまずい」
家の母屋の方が、慌ただしくなる音が聞こえる。
母屋と離れをつなぐ廊下に足音が聞こえてきた。
どかどかと聞こえる。複数人いるのだろう。
足音がどんどん近づいてきて、離れの障子をそぉっと静かに開けた。
チラリと覗き込む。
畳の真ん中で布団を敷いて寝ている少女が1人。
「ここは、なにもないな……」
と小さな声で言って、母屋の方へ戻って行った。
人がいなくなったのを確認すると、縁側の下から紅葉と照星が出てきた。
一乃も音を立てないように、布団から出て縁側に近づく。
「ふ~、危なかったぁ。一乃、スケールがでかいよ」
「おい、紅葉、今のは」
「ほらね」
一乃を見た。
「一乃には力があるんだよ」
「強すぎやしないか?」
「……まぁ、そうだね。個性の1つじゃない?」
「……いい風に言ったな」
「ポジティブって言うんだ」
紅葉が一乃の手を取った。
「今まで、力がないなんて言われ続けてきたけど、一乃にはこんな力があるんだね。どうして、昼間は感じられないのかはよく分からないけど、まぁ、なにかしらルールがあるのかな?」
「るーる?」
「ん~、条件みたいなものかな? だから、色々試してみようよ。どんな条件で力が使えるようになるのか。……照星も気になるよね?」
「気になるは気になるが……」
照星が一乃を見た。
「やるか? 一乃」
一乃が答えようとする。
しかし――
急に目の前が真っ暗になった。
体が一回転したように、感覚がおかしくなる。
一乃が目を開けた。
そこは、「星の宮」の大広間。
龍臣が心配そうに自分を見ている。
戻ってきた。
いや、戻ってきてしまったのか。
一乃が手のひらを見る。
握っていた、小さな花はなかった。
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