2話 願い ①
照星の頼みごとを終えた一乃が廊下を歩く。
今日はあいにくの雨だった。
シトシトと庭には雨が降り続いている。
そのせいか、あまり人出がない。
一乃が前を歩く人物に気がついた。
明蘭が歩いている。
舞の練習なのか大広間へ向かっている。
何気なく一乃は追いかけてみた。
明蘭は真っ直ぐ大広間へ入って行った。
一乃も後に続く。
大広間に入った途端、風が吹き、窓に並んでいる風鈴が一斉に鳴り響く。
明蘭が後ろを振り向いた。
「あなた…… 一乃さん?」
「はい」
「……どうしたの?」
「ごめんなさい、見かけたので……」
明蘭が風鈴を見上げて言った。
「どうしたんだろう? 大広間に入るまでは静かだったのに」
一乃もつられて見上げる。
大広間の端から端までに吊るされている風鈴。
色や形は様々あり、音色もそれぞれで異なっている。
今は音楽を奏でるように、音を鳴らしている。
「雨が強くなるのかしら?」
一乃が明蘭を見た。
「舞の練習ですか?」
「うん、そうよ」
明蘭は扇を抱えている。
「一乃さんは、祭りは初めて?」
「はい」
「そっか。屋台も出るからきっと楽しいわよ」
「……明蘭さん、舞は何回もしているんですか?」
「ううん、実は今回が初めてなの」
明蘭が少し視線を落として言う。
「本当は頭領になった時から私がやる決まりだけれど、まだまだ未熟だから母がやっていたの。……だからね、上手くいくのか心配で」
「……」
以前、舞の練習を見た時は失敗こそしたものの優雅に舞っていた。
自分は舞を踊ったことはない。
経験もなければ、あの時、人生で初めて見たが、純粋に美しいと思った。
「私はあまり舞のことはよく分かりませんが、以前、見た時とても綺麗だと思いました」
きっと何度も練習したのだろう。
くるりくるりと扇を回す明蘭は今になって出来たことではないと思う。
「だから……」
一乃が少し俯く。
「ふふふ、一乃さんは優しいのね」
四宮の周りの者は、一乃が無能な人間だと言っていた。家族からも見放されていたと。
先代の一宮の頭領が亡くなり、彼女が継ぐと決まった時はかなり批判があったが、今はもう批判の声は上がらない。
動物襲撃事件では龍臣とともに任務を遂行し、見事やり遂げたと報告書に書いてあった。
龍臣のおかげだと、周りの人間たちは言っていたが。
みな、無能とはいうが、どれほどのものなのだろう。
「そんなに言ってくれるんだったら、いい舞を見せなきゃね」
くるりと舞台の方を向く。
抱えていた道具から1冊の本が落ちた。
一乃が気づく。
「あれ……?」
「!」
明蘭が落としたものに気が付いた。
素早い動きで落ちた本を回収する。
「それ……読んだこと、あります」
一乃が回収した本を指さして言った。
「ええ!!? ……これを?」
「はい、昔、家にありました」
「い、家にあった!?」
「4巻まで読みました」
「そ……」
明蘭がなにか言おうとすると、
「あー、二人でなにしてるの?」
廊下から晴蘭がやって来た。
「せ、晴蘭……」
「どうしたの?」
晴蘭が近づいてきて、一乃の横に並ぶ。
明蘭がドキドキしながら2人を見た。
落ち着け、落ち着けと心の中で何度も唱える。
そういえば、一乃を過去に何度か見てはいるが、こんなにマジマジと見るのは初めてだ。
(小さい……)
自分と同じ身長の晴蘭と並ぶと際立つ一乃の身長。
晴蘭の肩に一乃の頭がある。
それでいて、
(ふわふわしている……)
長い白髪が、ゆるやかに流れている。
ということは、
(かわいい)
「?」
一乃が視線に気が付いた。
どうしたのだろうと首をかしげる。
「!」
明蘭が我に返った。
明蘭が両手で両頬を叩く。
驚く一乃。
「あー気にしないで。いつもの事だから」
晴蘭が呆れた顔で言った。




