1話⑤
廊下の方から男性の声が聞こえてきた。
明蘭が反応する。
全員が廊下の方に顔を向けた。
そこに立っていたのは、見たこともない男。
「失礼いたします……すみません。突然。あ、明蘭さん、やっぱりここにいた?」
「ど、どうしてここに?」
「あーあれが許嫁だよ」
驚く明蘭に代わって、晴蘭が言った。
「晴蘭くん、こんにちは」
「うん、こんにちはー」
許嫁と晴蘭はのんびりと挨拶する。
「ちょっと、ちょっと! どうしてここに秋都さんがここにいるの?」
「ああ、舞のお師匠さんに聞いたんだ。ここにいるよって」
「どうして…… なんの用事があったの……」
「少し急いでいて、これを渡したかったんだ」
と言って、差し出したのは綺麗な装飾がされた小さな箱。
「? なに、これ?」
「期間限定なんだ。買ってから、すぐに見ないと綺麗なものが見れないらしくて」
「限定? 見ないと?」
ちんぷんかんな明蘭は、秋都の言葉を反復した。
「とにかく、早く君に見せたくて持ってきたんだ。開けてみてよ」
「な、中身は、一体何なの?」
「それは内緒、開けてからのお楽しみ」
明蘭が箱の取っ手に手をかけた。
「あ……」
一乃が反応する。
「!」
箱を開けると、何かが飛び出してきた。
「お、おい!」
黒い何か――人間ではない何かが無数に出てくる。
妖だ。
意思があるのか、天井にへばりついてこちらを見ている。
明蘭が大きな声を上げた。
「ちょっと! 秋都さん! これどういうことよ!」
「ご、ごめん!! 知らなかったんだ!」
「知らない? あなたが持ってきたのでしょう!」
頭を抱えて完全にしゃがみこんでしまった秋都は情けない声で言う。
「本当に知らないんだ! 使用人が『女性ならこれが喜ぶ』って言っていたから持って来ただけで! 早く開けた方がいいって言うから……」
「とりあえず、どうにかするぞ」
龍臣が上を見上げながら言った。
「私がやるわ」
明蘭が全員の前に出る。
「え、明……」
晴蘭が心配そうに言う。
「大丈夫よ、これくらい」
「じゃなくてさ、部屋ごと吹き飛ばさないでね」
「……大丈夫よ。けど、保証はしないわ」
「しないのかよ」
龍臣がすかさず突っ込んだ。
「吹き飛んだらみんなで片付けましょう。それがいいわ」
なにが楽しいのか、笑顔になった明蘭は、懐から大きな扇を取り出した。
使い込まれている扇。大事に扱っているのだろう。木製の扇には艶が見える。
パシンッと扇を開いた。
明蘭の周りに力が溢れる。
足元から、小さな光が湧き出てきた。
明蘭が天井の無数にいるなにかを睨む。
「いまいち加減が分からないけど、大丈夫よ。今、楽にしてあげる」
右手に持った扇を天井に向かって振りぬいた。
途端、大きな風が大広間を包む。
扇を自身の顔の近くに持ってくると、左手の人差し指と中指を立て印を結んだ。
小さな声で、呟く。
周りの風に力がこもる。
天井にいるなにかが、鳴いた。
風が苦しいのか、明蘭の紡ぐ言葉が嫌なのか、そこで悶える。
明蘭が目を開いた。
一気に力を天井に向ける。
風が床から天井に流れ込み、周りがパッと明るくなった。
天井を見ると、黒い何かはいなくなっていた。
明蘭の許嫁――秋都は、しゃがんで縮こまっている。
明蘭がため息混じりに行った。
「もう大丈夫よ。でも……ここに変な物は持ってこないでちょうだい」
「う、うん……ごめん」
「今のこの箱から出てきたんだよな?」
龍臣が見る。
「わぁ……綺麗ですね」
箱を覗いた環奈が嬉しそうに言った。
明蘭も箱の中を見てみる。
「……」
箱の中は、キラキラと光輝いていた。
庭から入る光が当たり、鏡や螺鈿や蒔絵が星のように光る。
箱は小物入れのようだ。
「もうその箱は大丈夫みたいだな」
朝晴が言う。
秋都がおすおずと横から出てきた。
「もし……嫌じゃなければ、使ってください。本当に綺麗な物なので……」
「……」
正直、気が乗らない明蘭であった。




