1話②
一乃、龍臣、朝晴、晴蘭、そして一乃の付人である環奈を加えた5人が大広間へやって来た。
奥の舞台の上で、舞の練習をしているのか、四宮明蘭は扇を持ちながら、優雅に回っている。
舞の師範が、手拍子をとっていた。
「祭りが近いからね」
晴蘭が言った。
毎年、夏に開催される祭り。
この日だけは、「星の宮」に外部からも人が往来し、出店や屋台も立ち並ぶ。
神様を祭る行事に欠かせないのが、舞の奉納であった。
四宮家が代々、受け継いでおり、頭領が舞うことになっている。
そんな、四宮明蘭だが、どことなく集中力が切れているようにも見えた。
長い裾を踏んでしまいよろけてしまう。
「はぁ……」
と、明蘭はため息をついた。
今日はここで練習が終了なのか、師範も大広間から出て行った。
明蘭が廊下から近づいてくる5人に気づく。
「晴蘭? どうしたの」
「あ、明蘭。前、話していた――」
話している途中で、晴蘭が持っている短刀を振り抜いた。
「!」
矢が床に落ちる。
「ほらね~」
と、晴蘭はやれやれしながら言った。
龍臣がすばやく動く。
矢が飛んできた方角を目掛け一目散に飛んだ。
辺りには誰もいない。
逃げたのか?
それにしてはあまりにも早すぎる。
龍臣は5人のもとへ戻ってきた。
朝晴が龍臣に聞く。
「どうだったんだ?」
「誰もいない。気配すらなかった」
今度は晴蘭が言った。
「そう、誰もいないのに矢が飛んでくるんだよ? 不思議だよね」
「一乃、なにか感じなかったか?」
龍臣が一乃に聞いた。
「いいえ、なにも」
晴蘭が明蘭を肘でつく。
「な! なによ!」
明蘭が慌てながら晴蘭に言った。
「明蘭、挨拶、挨拶」
「あ、挨拶!? 晴蘭は?」
「俺はした」
「ええ?」
話している2人の顔は瓜二つ。紺色の着物がよく似合う2人だ。
明蘭がこちらをチラチラ見る。
「あの……明蘭です。四宮明蘭。こっちは弟の晴蘭」
「ああ……」
明蘭の様子に戸惑う龍臣。
四宮はこんな人物だったか?
仕事で一緒になったことはなかったが、椎名様の下に集まった時には、堂々と発言していたと記憶している。
「さっきの矢のこともそうだが……何があったんだ?」
「分からないわ。最近、急に矢が飛んでくるようになって……その方向に走ってみても誰もいないし」
「いつから飛んでくるようになったんだ?」
「……そうね……夏祭りの舞の練習をしたころからよ」
「舞の……」
「もう10回以上飛んできてるよね」
「10回も?」
「あ――」
晴蘭が反応した。
明蘭を小さく押す。
明蘭が後ろによろめいた。
明蘭の目の前を矢が飛んでいく。
隣の壁に矢が突き刺さった。
「――」
晴蘭が体を押さなければ、刺さっていたのは明蘭だった。
「あ……ありがとう」
「うん~」
なにも気にしていないように晴蘭が答える。
「大丈夫か?」
4人も近づいてきた。
壁に矢が刺さっている。
全員で飛んできた方向を見る。
方角は庭。
誰もいない。
風が通り過ぎていく。
「今、誰もいなかったですよね?」
環奈が言った。
「まー、もうちょっとで正午だし」
と、晴蘭が言う。
「正午?」
「午後になれば飛んでこないんだ。いつもね」
「午後になったら……」
環奈がパッとひらめいたように指を立てた。
「実はあの朝顔から飛んで来てたりして!」
今の発言に、周りにいた全員が大真面目な顔で環奈を見る。
自分を見る全員の目に驚いた環奈は汗を流しながら焦る。
「え? え? 私まずいこと言いました?」
龍臣が草履も履かず、庭に降りた。
のっしのっしと庭を突き進んで行く。
花壇に植えられた朝顔。刺さっている支柱に茎がまとわりつき、紫や赤紫の花が咲いている。
龍臣がそっと優しく触った。
途端――朝顔が、ぼろっと崩れ落ちた。
地面に落ち、黒い灰のようにボロボロになる。
龍臣が手元を見た。
自身の手にあったのは、紙。
見覚えのある文様をした紙切れがあった。




