1話 星の宮 ①
閲覧いただきありがとうございます。
このお話は第1~5章までを予定しております。
今日はいい天気だ。
雲はまばらで、きれいな青空が見える。
風も優しく、時折、体の周りを流れて行った。
こんな気持ちのいい日だというのに、黒い着物を着た黒髪の男はため息をついた。
(面倒ごとを押し付けられた)
右手で額をおさえる。
後ろに立っている付人の男が心配そうに尋ねた。
「龍臣様、大丈夫ですか?」
龍臣と呼ばれた男は振り返らずに答えた。
「ああ、まったく嫌な仕事だ」
「椎名様の言っていた任務のことですね」
任務を任されるのは誇り高いことだ。
しかし――
「なぜ、あの一宮と一緒なんだ…」
ため息をつきながら、龍臣は廊下を歩いて行く。
「星の宮」
昔からこの国には、妖が人間とともに生きてきた。
共存とは聞こえはいいが、時折、人々を襲うときもある。そんな有事の際に、妖を討ち、封じる者たちが必要だった。
表に名は出ずとも、彼らはずっと、静かにこの国の裏側を支えてきた。
この「星の宮」をまとめている人物――椎名照星。
彼のもとには5人の重役がいる。
5人には、それぞれ「一宮」「二宮」「三宮」「四宮」「五宮」と名前が付けらていた。
その5人のうちの1人、二宮龍臣は廊下の先にある、ひとつの部屋を尋ねた。
「一宮、いるか?」
龍臣がノックをしてドア向こうに声をかける。
「はい」
小さな細い声が聞こえた。
龍臣はサッと扉を開けた。
目の前に書類、紙が舞う。窓を開けているのだろう、風が一気に後ろを抜けて行った。
窓際の机には書類の山。
山の向こうに椅子に座った白い人影が見えた。
その人物が椅子から立ち上がる。
白い髪は床に付きそうなぐらい長い。
白い着物に白い厚手の羽織。
白い少女は龍臣を見た。
「書類くらい整理したらどうだ?」
龍臣が冷たく言う。
この部屋の主人にして、5人の重役の1人――
一宮一乃 が、のんびりした声で言った。
「今は繁忙期なので書類の整理が間に合わないんです」
「繁忙期?」
「受注したもの、発注したもの……要は決算ですね」
床に散らばった紙を1枚1枚拾い上げ、一乃は机にポンっと置いた。
「龍臣さんは……どうされました?任務のことですか?」
「ああ」
この「星の宮」では一宮が格上。
二宮が一宮に挨拶しに行くのが当たり前だ。
(こんなやつに)
龍臣は拳をギュッと握った。
「私も仕事が片付いたら、ご挨拶に行こうと思っていました。ご足労をおかけして申し訳ございません」
「そんな態度だから周りにも舐められるんだろう。お前は一宮なんだ。一宮らしくしてろ」
「はぁ」
なんとも腑に落ちない返事に龍臣はイライラする。
「今回、椎名様から預かった任務についてだ」
「はい、"星の宮の警備員が襲われた犯人を突き止める"ことですね」
「ああ、襲われたのは昨晩、正面玄関で警備を担当していた男が人"ではない"なにかに襲われた」
「命に別状はないものの、今話せる状態ではなく、人ではないなにか、についても周りに居合わせた者の証言です」
龍臣の後ろに立っていた付人が言う。
「桔梗、何か証言は増えたか?」
桔梗と呼ばれた男は続ける。
「はい、襲ったなにかは"牛"のような形をしていたと」
「牛?」
「初めは大きい野良犬だと思ったそうです。しかし近づいて来たらあまりの大きさに驚いた。ツノが生え、牛のようだった」
「……それは普通に牛ではないのか?」
「居合わせた者が刀を取り応戦したところ、霧のようにいなくなったそうです」
「……霧のように」
一乃は考えながら桔梗の話を聞いている。
「一宮はなにか思い当たる節はないのか?あの"一宮"なんだ、なにか小さな情報でも持ってるんじゃないか?」
「ありません」
皮肉に即答で答える一乃。その様子に苛立ちが増える龍臣。
「俺が不可解なのは、どうして、お前と俺が協力して任務を担当するのか。てことだ」
「今回の任務、話だけ聞いていれば俺だけでも達成出来る。なのにどうしてお前が?言っちゃ悪いが……」
「足手まといだと?」
一乃が話を遮った。真っ直ぐ龍臣を見る。
少しだけ龍臣はたじろいだ。
「……っ、そこまで言わない。ただ、お前はなにが出来るんだ?」
一宮一乃は、生まれた時から力がない。
術も組めず、式神も出せない。
家族からは白い目で見られ、母屋からは追い出され、離れで暮らしていたと聞いていた。
先代の一宮の頭領が亡くなってから、一乃に代替わりした際には周りの反発がかなりあった。
――なぜ、無能で最弱な小娘を重役に置くのか?
「星の宮」のまとめ役、椎名照星からは一目置かれ、一宮は事実上の解体、今や「一宮」には一乃と付人の2人しかいない。
(なぜ椎名様はこいつを)
龍臣は一乃を見る。
「私も不思議に思っていました。確かに、龍臣さんだけでも任務は達成出来ると思います。……でも、なぜ2人体制にしたのか」
一乃が首を傾げる。
「照星さんはなにか他に考えがあるんでしょうか」
すると――
「一乃様!」
バンッと大きな音を立て、扉から人が入って来た。一乃の付人、志野環奈である。
焦燥感に駆られる環奈とは対照的に、一乃はのんびり答えた。
「環奈、どうしたの?」
「大変です! あ、お取り込み中でしたか……申し訳ございません」
「いい、どうした?」
ぶっきらぼうに龍臣が答えた。
「宝物庫の物が無くなっているんです!」
「「「宝物庫?」」」
「とにかく来てください!」
環奈に引っ張られ、3人は部屋を出た。




