5話⑤
「だから、なぜあなたは普通にこの部屋にいるんだ?」
一乃が働いている部屋に来た龍臣は、平然と座っている朝晴にため息をついた。
「お前だって普通に来てるだろう」
「俺は報告書のまとめを見せに来ただけだ。仕事だぞ」
「いいじゃねえの、俺も仕事よ」
「なんの」
「後輩たちがキチンと仕事してるかってところよ」
「見本になったらどうなんだ?仕事しろ」
「厳しいなぁ」
奈取がいなくなって、しばらく「星の宮」は平穏に日常が過ぎている。もう無くなるものもなければ、黒い動物の形をした何かが現れることもなくなった。
「一乃、いいのか?」
「はい、いても大丈夫です」
「じゃなくて体の方は?」
「今は、もう痛くありません」
「そうか」
すこし安心したような様子を見せる龍臣。その様子を見ていた朝晴が嬉しそうに言った。
「うんうん、任務を共に乗り越え、仲が深まったってことだな」
「なんなんだ? あなたは」
「仲間って良いってことよ。互いに高め合い、協力し合い、いい関係だなぁ」
腕を組んで深くうなづく朝晴。
「朝晴さんも仲間ですよ」
「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「一乃、こんなやつ入れなくていい」
「なんだよ、冷たいなぁ!俺だって入れてくれよ。切磋琢磨しようぜ」
「どうしても、あなたは邪魔するとしか思えない」
「ひどいな。俺をなんだと思っているんだ? 一応、先輩だぞ?」
「なんだとも思っていない。ここにいる人」
「ちょいちょい! もう少しなにかないのか? 語彙力がない人間だと思われるぞ」
「仕事をせず、後輩のためだと言いながら、後輩の部屋に押しかけ、話し相手にならないと寂しがる先輩」
「くっ……ぐうの音も出ない……」
2人の掛け合いを見て、一乃がほほえむ。
「ふふふ、仲良しですね」
「そうだろ?」「断じて違う」
同時に答えた。
「龍臣様、こちらにおられましたか」
桔梗が廊下を歩く龍臣を呼び止めた。
「どうした?」
「ご実家からお手紙です」
桔梗が1つ封筒を取り出した。
「また、継母上からか」
「いいえ、御父上からです」
「父上から?」
初めてだ。父から手紙をもらうのは。
龍臣は自室にも戻らず、その場で手紙を開けた。
便箋はたったの1枚。継母から来る手紙は毎回5枚はあるためか、少なく感じてしまう。
「いかがでした?」
桔梗が龍臣に聞いた。
「弟――雪臣が副頭領になるのは取りやめになったようだ」
「そうでしたか」
桔梗の反応に龍臣が感づく。
「桔梗、知っていたのか?」
「雪臣様を副頭領にしたい。という願いを持っているのは継母上だけです。御父上は昔から反対しておりましたから。以前より、椎名様に迷惑をかける、とお伝えしていました」
「……初めて聞いたぞ」
「御父上は龍臣様には言うなっと言っておられましたから。気を病んで欲しくなかったのでしょう」
「……」
「ここからは独り言になりますが……龍臣様の来ている羽織、それは御父上が御母上との結婚の儀の時に着られたものです」
「え……」
「二宮家の頭領しか着ることが出来ない羽織、御父上の心は昔から決まっていたのだと思いますよ」
龍臣が手紙に目を向ける。間違いなく父の字。
最後の方に桔梗の絵が描かれている。
母が好きだった花。
息子に付く、初めての付人に名付けた花の名前。
「もう一つ、独り言ですが……御母上の墓前に毎日、花を手向けに行かれている方がいます」
桔梗が龍臣を見た。
「忘れてなんかおりませんよ。ずっと」
桔梗の目は優しい。
「桔梗……今度、家に帰った際は墓参りに行こうと思う」
「ええ」
「お誘いしても恥ずかしくはないものだろうか? ……父上を」
「もちろんですよ」
龍臣が、庭の方に目を向ける。
春が終わり、夏が来る。
草や木々の緑が、新しい季節が来ることを喜んでいるように、優しく風に揺れていた。
第1章 終わり
最後まで、お読みいただきありがとうございました!
第1章これにて完結です。
次回から第2章に移ります。新しい仲間がまた増える予定です。
6月20日から第2章を更新していきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
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