5話④
「一乃様!」
環奈と龍臣が一乃の入っている鳥かごに駆け寄った。
「一宮、大事ないか?」
「……はい」
「今出してやる」
「……」
「でも、どうやって? あの芹川じゃない芹川さんが組んだ術です。あの人にしか解けませんよ?」
「分かりにくい言い方をするな。他人が解く方法が無いわけじゃない」
「……いいんです」
一乃がポツリ呟いた。
「このままでも」
「一乃様?」
「私は……人に必要な人間ではありませんから……」
「!」
どうして平気な態度が取れるのだろう。ずっとそう思っていた。周りの人間からあれほど疎まれているのに。
でも、違う。
傷つかないはずがない。
彼女は、ずっと、戦ってきたのだ。
見えないところでずっと。
「んな訳あるかーーーーーー!!」
環奈がとびっきりの大きな声を出した。
「!」
その声に一乃は驚く。
環奈は声を震わせながら少しずつ話す。
「わ、私にとって、あなたは……。あなたが、いなかったら……生きる意味なんて、ないのに……。一緒にいて、楽しかったのは、私だけなんですか?」
「か、環奈……」
「これからも一緒にいてくださいよぉ」
「一宮」
龍臣が一乃の前に立つ。
「今まで、すまなかった。それと……昨日はありがとう。俺を庇ってくれて。だから無傷だ。……お前のおかげだ」
かごをつかんでいる一乃の手を握る。
「約束したんだろ? 諦めないと」
「……」
「一緒に戻るぞ」
龍臣が鳥かごから一歩、後ろに下がった。
「環奈、少しさがってろ」
腰に差さっている刀の柄に右手をかける。
「な、なにを……?」
「大丈夫だ、一乃、少しかがんでいろ」
目をつむる。
集中する。右手に触れる刀に、自分の体中の力を込める。
龍臣が目を開いた瞬間――
刀を抜き、鳥かごを左から右へ切った。
閃光が走る。
ガシャッと音をたて、鳥かごが切られた場所から崩れていく。
「!」
鳥かごからズルッと落ちてきた一乃を龍臣が受け止めた。
「大丈夫か?」
「……はい、ありがとうございます」
遠くで見ていた芹川が驚きの声を出した。
「おわー、噓やろ? 自分……」
龍臣の刀を見て、合点した。
「そうか、宝刀を持っとったんか。誰も受け継がんかったって聞いたんやけどなぁ」
懐から、術符を何枚か取り出した。
「いややわ~。予想外が多すぎるで」
術符に息を吹きかけた。紙が消えてなくなる。
桔梗が龍臣たちのところに戻ってきた。
「何か来るぞ」
空気の変化に察知した4人が周りを警戒する。
「ど、どこに……」
今までの黒い何かは見えない。しかし、どこかに気配は感じる。
「大丈夫です」
一乃が答えた。
「私が”見ます”。龍臣さん、切れますか?」
「! ……ああ。もちろんだ」
気配が動き回っているのが感じられる。右にも左にも、錯覚なのか後ろにも感じられる。
一乃が深呼吸した。
気配はかなり動きがすばやい。追うのが大変だ。
「龍臣さん、右上です!」
一乃の声で龍臣が刀を右上に振った。なにかを切る感触がある。
刀が振られた箇所に黒い霧が一瞬出て消える。どうやら1体倒したらしい。
「……! 左下です!」
「ふん!」
龍臣の左下で黒い霧が出て消えていく。
流石に分が悪いと思ったのか、芹川が塀の上を登り始める。
「逃げるつもりですか!」
環奈が大声で叫んだ。
「ん~~~、まぁ今回は、これでええかなって思って」
「龍臣さん最後です。正面から来ます」
「ああ」
龍臣が刀を正面に突き刺した。
ひと際、大きい黒い霧が出現する。風に乗って一瞬で消えた。
霧が晴れた向こう側に、塀の上に立つ芹川が見える。
「ほんじゃ、またな……小さい宮たち……っ!」
芹川が仰け反った。
小さな葉っぱが飛んでくる。
「なんや!人がかっこよく決めようと思っとるのに!」
「かっこ悪いぜ。奈取」
葉が飛んできた方向を見る。
そこには、五宮朝晴が立っていた。
「なんや、お兄ちゃんの方かい」
「こんなところに、なにしに来た?」
「内緒や。妹に会ったれ。寂しがっとるで」
「そうかよ」
「こんだけ人が来ると面倒や。退散、退散。ほな~」
奈取が塀の上に立ち、背中から落ちていった。
辺りが静まり返る。
朝晴が近づいてきた。
「大丈夫か? ……とりあえず中に入れ」
「あなた、あの男を知っているのか?」
「昔の知り合いなだけだ」
朝晴が、龍臣たちの肩をつかんで建物に向かわせる。
一乃は奈取がいなくなった塀をチラッと見た。
なにも普段と変わらない。
いつもの景色だった。
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次回で第1章が終わりです。




