5話③
揺れる。腕の中で、一乃は目を覚ました。
昨日の傷が少し痛む。
いつも感じる香りとは違うことに気が付いた。誰だろうと顔を上げる。
そこには、
「おわ、起きはった?」
サル事件以来、見ていなかった芹川がいた。
「せ、りかわさん?」
「覚えてくれとったん? そうや。久しぶりやね」
一乃がようやく違和感を覚えた。なぜ、芹川が自分を抱っこして歩いているのか。
「あ、あの……」
「ん?」
「どちらへ……?」
「ああ、一宮はんさぁ、俺とここから出ぇへん?」
「?」
「面白ないやろ、自分、こんなところにいたって。上手く隠しとるんか知らんけど、自分えらい力持っとるんやね。驚きやわ」
芹川は一乃の反応も見ずに話し続ける。
「なのに嫌な話やね、昔からやろ? 誰も一宮はんのこと分かってへんし、認めてへんし。自分、コウさんのとこの子やろ?」
「……コウさん?」
「必要とされないのは辛いんとちゃうん? 聞いたで。家族からも見放されて母屋とは別の離れに追いやられとったってなぁ。独りぼっちで過ごしとったんやろ? そんなん可哀そうやわ」
「……」
「宝物庫で会った時、思ってんねん、おわ~面白い子おるわ~って。んで、廃寺行くとき一緒に着いていったらドンピシャ、この子や! 思って」
芹川が1人で、しゃべっているうちに外に出た。
晴天の空が眩しい。
一乃はまた違和感を感じた。
誰もいない。いなさすぎる。
普段の「星の宮」であれば、もっと活気があるはずだ。
修行している者、教える者、それに習う者、業者や使者の行き来が必ずある。
(今日はどうして……)
芹川がやっと一乃を見た。感づいたのかニヤッと笑って教えてくれる。
「邪魔やったからさぁ、ちょっと退いてもろうてん。あんまり人目になんか、つかんほうがええやろ?」
「? あなたは一体……」
「一乃様!!」
後ろから声がした。
芹川がゆっくり首だけ動かして後ろを見た。
「なんやもう来たん?」
「やはり、お前だったか」
「二宮はんと環奈はん、桔梗はんやったね。久しぶりやな」
「何が”久しぶり”ですか」
「”芹川”という名前、お前の名前ではないな? この春にきた芹川という男はメガネをかけている男だ。どうやってなりすましている?」
「知りたい? 簡単や。ちょいと術を組めば簡単に騙せるで?」
「騙す……」
環奈が呟いた。
「そうやって調査班も、この「星の宮」も騙していたのか」
「ん~~~、まぁそうやね。気づくの遅かったやん」
「何が目的なんだ? 一宮を連れてどこへ行く?」
「質問は1個にしてほしいんやけど……」
芹川が面倒くさそうに言う。
「目的は教えへん。……ああ、一宮はんは一緒に連れて行こかと思って」
「は?」
「連れていく?どこへ?」
「知りたがりさんやね。ええやろ? 別にここにおったって誰の役に立つわけやない。自分たちやって、この子のこと煙たがっとったやろ?」
「……」
「可哀そうやん。なんで外から妖怪たちが襲って来んのやろ? て不思議に思うたことあらへん? この子がずっと結界張ってるからやで? 敷地の四隅。すごいなぁ、俺も見てきたわ。でも一宮はんが作ったものやないやろ? 誰かが作ったものを自分が起動させてるんやろ。まぁそれでも十分すごいけどな」
芹川が3人を見た。
「その一宮家の作った箱の中や。この子の力は感じづらいかも知れへんな」
でも、と続ける。
「ここにおっても、この子の力は発揮できん。もったいないで?」
「裏を返せば、一乃様の力を利用するということですか?」
「……」
龍臣が環奈の前に出る。
「今回の騒動、警備員が牛に襲われた事件から宝物庫のネズミ、廃寺のサル、中庭のトラ、昨日の龍まで、全てお前の仕業だな?」
「どうして、そう思うん?」
「依田さんだ」
芹川と同じ、調査班にいた依田。
「サル事件の後、依田さんは再度、廃寺を訪れた。その際に、木に教えてもらったと言っている。あの人は、植物が見てきた記憶を見ることが出来る。廃寺に生えていた木の記憶を見たところ、お前が術符を使用してネズミ・サルを生み出した、と分かった」
「……やっぱりな。せやから、あの時、木に触れんようにしたんやけど……でも、もう一回行っとったんや。盲点やったね」
「だとすると、お前は昔「星の宮」の人間だったのか?」
「なんや、そこまで知っとるんやね。そうやで、だいぶ昔の話やけどな」
芹川が一呼吸する。
「……俺たちは「月の杜」」
「月の……杜?」
「「星の宮」と対抗して作ったんや。あ、俺が名付けた訳やないで? こんな安直な名前」
「知るか」
芹川の目が真面目になる。
「ほしいねん。「星の宮」を潰す、圧倒的な力が」
「……桔梗。行けるか?」
「はい」
龍臣が桔梗に耳打ちする。
「面倒やね。一宮はん、ちょいと堪忍」
「!」
目の前に鳥かごが現れた。ふよふよと宙に浮いている。
芹川が一乃をかごに入れた。
「おい!」
「なんや、相手するんやろ? ええで、別に。このかご頑丈やし。俺しか開けられへん」
芹川が桔梗を見た。
「来いや」
「望むところです」
桔梗がその場からいなくなる。
その瞬間、芹川が吹っ飛んだ。
「龍臣様、一宮様をお願いいたします」
お読みいただきありがとうございました。
少しでも気になった方は、いいね、ブックマークして頂けると励みになります。




