第一話「きみの結婚」
陽が沈み始めた西の空が、燃え尽きるような朱色に染まっている。
僕は普段、仕事終わりは家に直行する。
でも、今日は珍しく公園のベンチに座り、缶ビールをゆっくりと飲んでいた。
「あの頃、よくここに来たよね」
懐かしい思い出が、まるで昨日のことのように蘇ってくる。
隣には、笑顔が眩しい君がいて、僕は君の手を握りながら、未来の夢を語り合った。
「結婚したら、ここに住みたいね」
そう言って、君は目を輝かせた。
あの日から、どれほどの月日が流れただろう。
君との約束は、叶うことなく、僕らは別々の道を歩むことになった。
「もう、連絡してこないのかな?」
何度か、そう思った。
でも、プライドが邪魔をして、連絡することはできなかった。
「幸せになってほしい」
そう願う一方で、どこかで期待していたのかもしれない。
「いつか、また会えるかもしれない」
そう思いながら、君への想いは、心の奥底にしまい込んでいた。
そして、今日。
SNSのタイムラインに、君の姿が映し出された。
真っ白なウェディングドレスを着た君の姿は、美しく、輝いていた。
隣には、笑顔が素敵な男性が立っている。
「結婚したんだ…」
その瞬間、胸に突き刺さるような痛みを感じた。
「もう、会えないんだ…」
そう呟くと、涙が溢れてきた。
溢れ出す涙は止まらない。
「なんで、僕じゃダメだったんだろう?」
「どこが、悪かったんだろう?」
何度も何度も自問自答する。
答えは、もう出ている。
君が選んだ道は、僕じゃなかったんだ。
「幸せになってね」
そう願いながら、僕は缶ビールの空き缶をゴミ箱に捨て、公園を後にした。
空には、満月が輝いていた。
君の笑顔が、目に焼き付いている。
「さよなら」
静かに呟くと、僕は夜空を見上げた。