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お仕事

コロッケ蕎麦

作者: 御田文人

春の推理2024参加作品です。

 食事時を少し外れた午後二時過ぎ、駅の立ち食い蕎麦に2名の男が来店した。

 二人ともスーツ姿。一人は20代半ばの若者、一人は40代だろうか。話しぶりから年長の方が上司のようだ。

 若者は、かけそばとカレーライス。上司はコロッケ蕎麦を頼んでいた。


「蕎麦にコロッケって・・・旨いんっすか?」

 若者が言った。

「食ってみろよ。コロッケ蕎麦の良さが分かるヤツは、仕事が出来るヤツだ」

 そう言って上司は現金でコロッケを買い、部下に与えた。


「確かにイケますね」

 カレーに蕎麦にコロッケとは、かなり重い組み合わせだが、若者はものともしないようだ。

「だろ。先入観に縛られるヤツには、この良さが分からない。しかも、コロッケ蕎麦は必ずしも蕎麦は高級じゃなくていいんだ。むしろ、普通の立ち食い蕎麦ぐらいの麺の方がコロッケに合う。そういう組み合わせの妙も仕事に通じてだな」

 上司は蘊蓄が語りだす。若者は『へぇ』『そうっすね』と適当な相槌を打っているが、まともに聞いているかどうかは怪しいものだ。

 ただし、コロッケ蕎麦が気に入ったことは間違いないようで、コロッケのつゆの浸し具合を色々変えながら楽しんでいた。


「しかし、これを最初に作った人は、なんで蕎麦にコロッケなんて入れようと思ったんですかね?」

 そう言って、若者は携帯を取り出して調べようとした。

「また!今どきのヤツはすぐそうやって調べるんだからな。。。すぐ答えだしちゃツマランだろ。まず一回自分で考えてみろよ」

 上司が苦言を呈した。

「そうっすね・・・」

 若者は一旦考えた。考えつつもカレーをかきこむ。


「ももとは、カレー用のトッピングだったとか?それを気まぐれで蕎麦に入れたら旨かったとか?」

「ほう。ありうるな」

 上司は感心する。

「もしくは、天ぷらの仕入れ先に頼まれたとか」

 上司は二度三度大きく頷いた。

「そっちの方があるかもな。『コロッケが売れ残ったんで、安くするから引き取って』みたいな」

「それで、シブシブ受け入れたら思わず好評だったとか」


「うん。後は、何かのメッセージが含まれてるとかはどうだろう?」

 上司が議論の方向性を変えた。

「メッセージですか?」

 若者はイマイチ、ピンと来てないようだ。

「例えば引っ越し蕎麦ってそうだろ?あれは『ソバに越して参りました。どうぞ細く長くお願いします』って意味だ」

「ああー!確かに昔の人はダジャレ好きですもんね」

 若者はカレーを平らげた。そして『メッセージ、メッセージ・・・』と呟く。


「アゲアゲで行きましょう!とか?」

「さすがに昔はそんな言葉無いだろ」

「カラっと行きましょう!とか」

「コロッケ蕎麦のコロッケは、フニャッとしてる方がいいな」

「うるさいな・・・文句あるなら、課長も考えてくださいよ」

 若者は憮然とする。

「すまん、すまん。『コロッケ』って言葉自体を何か、もじれないかな?」

 上司は悪びれない。


「うーん・・・コロッケ、コロツケ、コロツキ・・・なんかシャレありますかね?」

 切り替えの早い若者は、与えられた課題でまた考え出した。

「コロツキ・・・カラツキかな?挽きぐるみのことをそう言ったとか?」

「挽きぐるみって何ですか?」

「簡単に言うと、蕎麦の殻ごと挽いた黒っぽい蕎麦だよ。殻を入れない白いのが更科蕎麦」

「へぇ!更科ってそういう意味だったんですか!じゃあ、伝言ゲームかもしれないですね!」

 若者は何か閃いたようだ。

「どういうこと?」

 上司は首を傾げる。


「例えばですよ。ある時、そば通が蕎麦屋に入ったとします。しかし、周りの客を見ると更科を食べている。そば通はその日、挽きぐるみの気分だった。だから「蕎麦、カラツキので」と言った」

「ほうほう」

「それが、たぶんスタッフの滑舌が悪かったんでしょうね。ホールからキッチンへの伝達の過程で「カラツキの蕎麦」「カラツキ蕎麦」「カラツケ蕎麦」となった。で、注文を受けた職人は困るわけです」

「『なんだ?カラツケ蕎麦って』ってか」

 上司は困った職人が、腕を組んで首を傾げるような仕草をした。

「そうそう。で、その職人はプライドが高い人だったんでしょう。知らないとも言えないので、『カラツケ』を大胆にもコロッケと仮定して、自分の夕食用に買ってあった冷凍コロッケを揚げて、蕎麦に乗せてだしたと」

「出されたお客さんもビビるだろうな。『なんだこれ?』って」

「はい。でも、たぶん、蕎麦通もプライドが高かったんです。堂々と出されたら、知らないとも言えない。だから、えいやっ!で食べた。そしたらビックリするぐらい旨かった!」

「はははっ!絶対無いが、その説が一番面白いな!」

 そんな話をしていると、調理場からクスりと笑い声がした。


「ごめんなさいね。盗み聞きしてたつもりは無いんだけど。落語みたいな話してるから可笑しくて」

 かなりのベテランと見える女性店員がそう言った。

「実際はどうなんですかね?」

 上司が聞いた。

「諸説ありますが、最初は鶏挽き肉の素揚げだったみたいですよ。そういう揚げ物を全部『コロッケ』と言ってた時代があるみたいで。それが『コロッケ』の名前から、いつしか今のポテトコロッケに変わっていったみたいです」

「へぇ。しかし鶏の素揚げからポテトコロッケって凄いイノベーションですね」

 感心する若者を見て、上司は得意げに言った。


「なっ。コロッケ蕎麦は仕事に通じるんだ!」

くだらないネタですが。。昼食を食べてる時に思い付いてしまったので書いてみました。。

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― 新着の感想 ―
[一言] コロッケ蕎麦、子どもの時に美味しんぼで知りました。 立ち食い蕎麦はたまに行くのですが、結局まだトライしたことがなく……笑。 ふたりのやり取りが仲良しでなんだか癒されました(´ω`*) お店の…
[良い点]   推理を楽しみながら……無性にコロッケ蕎麦が食べたくなりました。
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