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44:救えたと言えるのか

 善継の声に呼応し蜘蛛が彼に抱きつく。バラバラに解け善継を包み圧縮する。背丈が縮み、ワイヤーの繭を突き破り小さな少女が姿を現す。


『魔法少女みうみう! 見参!』


 銀色のくノ一衣装を着た魔法少女、善継のもう一つの姿だ。

 瞳を開き怪物を睨む。善継が、魔法少女みうみうが倒すべき敵。それは石橋の心が、彼を傷付けた人々の悪意が形となったものだ。


「トラウマをそのまま化け物に作り替える……か。胸糞悪い」


「…………ーーーー ・ー・ー ーー・ー・ ・ー・ーー」


 姿を変えようと善継だとわかっているのだろう。怪物は幼い少女であろうと躊躇せず、爪をギラつかせ襲い掛かる。

 この小さな身体を、柔らかな肌をズタズタにしてやる。そんな理性すら感じられない獣のような殺意にも怯まない。

 床を強く蹴り、自分から一気に距離を詰める。


「はっ!」


 足の裏には小さな蜘蛛の巣型の盾。勢いを乗せ全力で蹴り抜く。咄嗟に腕で防ぐも、表面の刃が欠ける。

 蹴った勢いのまま跳躍し、空中で盾を分解。細いワイヤーを右手の蜘蛛型の手甲に集め、新しい牙を形成する。


「硬い……が」


 怪物は追撃とばかりに腕を回転させ肉片にしようと迫る。だが小柄になったせいだろう。狙いが難しいのか、前よりも避けるのが簡単だ。揺れる髪にも触れられず、虚しく空を切るだけ。

 当然善継も全力で避ける事に集中している。攻撃力は圧倒的、一撃でも貰えば挽肉にされてしまう。


「当たるかっ!」


 真横に凪払うも跳躍し回避。背後に回り込むと右手の牙を振るい脚を一本切り落とした。

 血が吹き出し、切れた脚は傷口から黒い塵となって消えていく。

 そうだ、これは魔物だ。この身体は地球の生物でも、ましてや人間でもない。

 あの転がっていた骸骨が証拠だ。これは石橋ではない。彼の心の闇が具現化したモンスターなのだ。


「ーーーー ・ー・ー ーー・ー・ ・ー・ーー」


 怪物は腰を百八十度回し振り向く。そのまま上半身を独楽のように高速回転させ、巨大な丸鋸のように善継へとにじり寄った。


「そんなのもありかよ。どんな構造をしてんだ」


 ギョっとするもすぐに思考を切り替える。人間には不可能な動きだが、こんなのは魔物で嫌と言うほど体験している。

 ゆっくり後退しながら観察。深呼吸をし隙を探った。無敵の技なんて存在しない。どこかに付け入る隙があるはず。

 あった。身体が肥大化したせいか足元がガラ空きだ。


「!」


 走りスライディングで股下をすり抜ける。更にすれ違いざまに更に脚をもう一本切り落とす。

 流石に身体を支えるのに支障が出たのか、目に見えて動きが鈍くなる。


「よし」


 あと一歩だと確信し牙を振り上げる。刃の塊となった頭を一撃で。せめて痛みを感じずにと突き立てようとする。

 しかし怪物は善継を寄せ付けまいと身体を震えさせ、全身の刃を射出した。


「ちぃ!」


 牙を振るい迎撃。全身から連射する剃刀を叩き落とし、身体を捩り避ける。幸い威力はたいしたことはなかったが、数が圧倒的だ。

 次々と迫る手の平サイズの剃刀。致命傷になるのを優先的に弾き避ける。肩を、太ももを浅く切付け血が滲む。


「この……止めろぉぉぉ!!!」


 苛烈な攻撃に耐えきれず、ついに牙が折れる。すぐに蜘蛛の巣型の盾を作り前方で回転させた。刃を弾く盾で受けつつ、善継は盾を蹴り飛ばす。

 回転しながら直進する蜘蛛の巣。それを迎撃しきれず怪物に直撃した。


「ーーーー ・ー・ー …………ーー・ー・?」


 突飛ばされる怪物。再び立ち上がろうとするも、急に身体の力が抜けたかのようにガックリと膝をついた。

 疲れはてたように肩で息をし、顔も青ざめたように見える。


「……どうやら限界みたいだな。もう、止まってくれ。充分に苦しんだだろ?」


「…………」


 ギアに手を伸ばし表面を叩く。


「チャージ!」


 怪物は逃れようとするも、身体に力が入らず身動きが取れない。

 絶望しているのか、怒っているのか、それとも笑っているのか。心の傷が生み出した怪物に自我があるのかもわからない。

 ただ一つ、やるべき事はわかっていた。彼の心を解放するのだ。


「眠ってくれ」


 跳躍し狙いを定める。一撃でその命を終わらせる為に。


「…………くらえ!」


『必殺撃滅!』


 突き出した足から八本の蜘蛛の脚が生え、一点に集中し矢尻のようになる。全身を一本の矢と化し、強力な蹴りを繰り出す。

 空気を穿ち、風を纏い鋼鉄の矢となった善継の蹴りが胸を貫いた。


「……ーー・ーー ーー・ ・ー・・ ・・」


 突き刺した脚を開き、内側から傷口を拡げ上半身をバラバラにした。飛び散った怪物の残骸が傷口から黒い塵と化して消えていく。


「・・ー・・ ・・ー」


 そのまま蹴り抜いた善継は床を削りながら着地。背後では昆虫の身体のような下半身が倒れる。

 塵となり消えていく怪物。これが人間ではない何よりの証拠だ。

 ただ、怪物が消えていく中に体内からあるものが残され床に転がっていた。


「……これが。こんなもんが欲しいのかよ」


 善継は憎らしげにそれを拾う。勇者ドラッグのアンプルが刺さったベルトだ。

 憤りのまま撲り破壊してやりたかった。だがこれには爆弾も仕掛けられている上、重要な証拠だ。

 深呼吸をしワイヤーでくるむと屋上から飛び降りる。事件の後片付けが残っている。ヒーローとしての仕事はまだ終わっていないのだ。

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