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41:使用法、用量

 薄暗い部屋、唯一の明かりは何台も並べられているパソコンだけだ。そんな部屋で誰かが優雅なティータイムを楽しんでいた。

 人間とは思えない魔の美貌。作り物のような異質な美しさを持つ女、売り子が白いティーカップを口にしている。

 彼女が見ているのは騒がしいオフィス街の様子。そう、善継達の戦いを見ていた。


「どうやら石橋さんも限界みたいですね。これだけ過去のコンプレックスに溺れて理性を失っているなら、良い塩梅に仕上がってます」


「所詮は底辺って事か。ああいう劣った人間には相応しい末路だな」


 部屋の明かりが点き部屋中に光が満ちる。彼女の背後から歩み寄る男、紅白の奇抜な髪をしたドゥドゥだった。

 彼は画面に映っている石橋を鼻で笑う。


「ハゲにデブにおっさんと、底辺男の条件満載か。滑稽だね」


「ドゥドゥさん、少し口が悪いですよ。そんな事言ったら炎上しますよ」


「ここでしか言わないさ。だけどまぁ……ああいう劣った人間は、俺のような優れた人間の踏み台として生きるのを運命づけられているんだよな。フフフ」


 下品な笑い声だ。人を見下し蔑むような目をしている。


「きっとあいつ、年齢イコール彼女いない歴だぜ。女が途切れた事の無い俺とは大違いだ」


「……相変わらず人間は面白いですね。どうしてこうもマウントを取りたがるのか」


「それが人間のサガだ。群れる動物はみんなそうだよ。上に立ちたがる。そしてそれは……生まれた時から決まっているもんさ」


「へぇ」


 フッと売り子は笑う。少し意地悪そうに、目を細めてドゥドゥを見ている。


「成る程です。なら昔馬鹿にしていた陰キャが、貴方よりもハイレベルな大学に進学し高給な会社に勤めてあたるのも当たり前だと?」


 ドゥドゥの顔が歪む。怒りだ。劣等感から来る怒りだった。


「しかも結婚もされてるとか」


「フン。ああいうのは勉強にしか価値を見いだせなかっただけだ。社畜しか道がなく、妻だって俺のようなイケてる男の食い残しに決まってる。十代を最高に輝いた時間にした俺の方が上だ」


「そんなもんですかねぇ。私には理解できません」


「人間じゃないあんたに理解できるもんか」


 笑ってはいるものの、声が少しだけ震えている。負けていないと強がっているようにも見えた。

 だからだろう、売り子は紅茶を口にし挑発するように半笑いで話し始める。


「そうですか。いやぁ解りやすいですねぇ。ノロマ、デブとイジメていた子が勇者になり、襲われて失禁しながら命乞いをしたんですよね。どっちが上か明らかですね」


「!」


 顔を真っ赤にしティーカップを叩き落とす。ガシャンと甲高い音と同時に紅茶が床に散らばる。

 地雷だった。これはドゥドゥにとって最悪の思い出のようだ。


「今更テメーが知ってるのはどうでもいい。だけどな、あんまナメてっとぶっ殺すぞ」


「おや? そしたら薬はもう二度と手にはいりませんよ。勇者ドラッグのおかげで勇者のフリをしているのに……ね?」


「…………くそっ」


 ドゥドゥは悔しそうに拳を引く。薬、勇者ドラッグが彼にも必要だった。

 彼は世間には勇者だと豪語しているが、実の所は勇者ドラッグを利用しているだけだ。薬を失う訳にはいかない。


「違う。俺が下なんじゃない、勇者なんてのがあるのが悪いんだ。異世界人がいなければ正しい評価がされる。あんなゴミに負けはしないんだ!」


 イライラしながら椅子を蹴る。


「俺は人気ネッチューバーだぞ。顔もイケメンだし、あんな醜い底辺とは違う。あいつらが勇者になって、上になるなんて許されるはずがない」


「イライラしてますねぇ」


「当たり前だ! あいつらは一生踏み台として生きていかなきゃいけないんだ。人間の世界は上下があって成り立つんだ」


 そう言いながら画面に映る石橋を指差す。画面では彼が善継に一方的に殴られている。


「ほら見ろ。俺ならあんなロートルヒーローには負けない。デブで不細工でハゲなおっさんはこの程度なんだよ。俺の方が薬の力を引き出している」


「それはそうですが……っと、ここからはドゥドゥさんも見ておいた方が良いですよ」


 何か起きたようだ。嬉しそうに、それでいて興味深そうに画面に食い付く。


「どういう事だ?」


「私は言いましたよね? 使用法用量は守ってくださいと。必ず変身後時間を空けるようにと」


「それがどうした」


 薬に使い方があるのは当たり前。彼も面倒だが守っている。


「石橋さんよりも耐性があるとはいえ、ドゥドゥさんも過剰に使ったり、時間を空けずに変身したらどうなるか。見ていてください」


 画面の中では石橋がアンプルを差し替えている。


「オーバードーズの末路を」


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