40:追い詰める意味
善継は続けて拳を振るい続ける。刃物の塊のような肌を殴り、蹴りを叩き込む。
単純な戦闘技術は善継の方が圧倒的に上。接近し殴り合いになれば石橋に勝ち目は無い。爪を振るよりも速く拳を打ち、反撃する暇も与えない。
ワイヤーで捕らえても切り裂かれる。ならば殴って気絶させるしかない。
「だっ!」
飛び上がりドロップキックを直撃させる。大きく吹き飛び転がるが再び立ち上がる。
タフさに驚く。普通の人間だけでなく、弱い魔物なら立ち上がるのも困難なダメージを与えているはずだ。
「クソっ……が」
このまま殴り続けて良いのだろうか。加減が難しい。
ベルトを破壊するのも駄目、本気で攻撃するのも駄目。数年前に経験した犯罪者ヒーローよりも難しかった。ここは日本、法治国家だ。悪人は全て抹殺するなんて言語道断。
「…………いや、もう一つ手はある」
立ち上がった石橋を見てある事が思い付く。そして真理達の方を一瞥する。
向こうでは真理と警官達が足を撃ち、由紀が倒れたゴブリンもろともまとめて消し飛ばしている。
流石は勇者だ。一方的な狩りとなっている。
「それに向こうも問題無し。俺がやらないとな」
指を鳴らしながら構えると石橋が走って来る。刀のような爪をふりあげ、怒りと憎しみ、そして哀しみを抱きながら。
今彼の目の前にあるのは幻影だ。しかし心の奥底、こんな幻を見せる原因は別にある。おそらく彼は昔から辛い思いをしていたのだろう。容姿を笑われ続けていたのだろう。
それでも許される事ではない。虐げられたからと人の命を奪って良い理由にはならない。
ワイヤーを飛ばし自動販売機を掴むと石橋に投げる。それを盾にするように善継も走り出した。
「効くか!」
自販機が投げられても驚きもしない。足を止めず右手で引っ掻くと一撃でバラバラにしてしまう。
だがその破片の影から善継が姿を現す。
「この……」
「フン!」
とっさに爪で突き刺そうとするも、腕を叩かれずれてしまう。更にバランスを崩した所に善継の横蹴りが腹に直撃した。
静止する空気。善継の足はしっかりと石橋を捉えていた。だが彼はしっかりと立ったまま、静かに肩を震えさせている。
「オヤオヤ? お疲れかな、メタルスパイダー。痛くも痒くもないな。どうした、さっきまでの勢いは」
「っ!」
そのまま石橋を足場に後ろに飛び退く。
全くと言って良い程ひ弱な蹴りだった。石橋は余裕を取り戻し笑うが、善継は静かに指を差す。
「……それはどうかな石橋さん。今のはわざと弱く蹴ったんだ。やり過ぎるとベルトまで壊してしまうからな」
「ベルト……だと? まさか!」
石橋の目に映っていたのは無傷のベルトとヒビの入ったアンプルだった。アンプルの亀裂からは黒い液体が漏れ、地面にポタポタと落ちていく。
ベルトを破壊すれば自爆し変身者を殺害する。ならば薬品の方を狙えばいい。アンプルを破壊すれば薬が切れる時間を一気に早められる。
「薬が一気に無くなったな。それで? あとどれだけ変身していられるかな? 一分? それとも数秒か? どっちにしろ時間は残されていない」
「ぐっ………!」
仮面のせいで表情は読めない。しかし彼の様子から相当焦っているのがわかる。
一歩ずつ後退している。追い詰めているのは明らかだ。
「来るなぁ!」
やけくそのように爪を投げる。しかしこんな単調な攻撃に善継はやられはしない。
指先からワイヤーを飛ばし爪を一本捕まえると、それを振り回し残りの爪を弾いた。爪は地面に落ちると黒い塵となって消えていく。
「無駄だ……っと」
爪は囮。この一瞬の隙で石橋は新しいアンプルに差し替えていた。流石に四本も持っていたのは予想外だ。少しばかり善継も焦る。
「ハァ、ハァ……」
「待て! 麻薬と同じ、乱用は危険過ぎる」
「まだだ、俺は……俺は!」
震えながらバルブに触れる。善継も止めようとワイヤーを投げた。
「もう誰からも馬鹿にされたくないんだ!」
アンプルにワイヤーを巻き付け、そのまま引っ張ろうとする。しかし石橋はワイヤーを切りバルブを回した。
『Overdose』
「あぐ?」




