表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/366

39:壊れる心

 ベルトから無機質な音声が発せられる。これが何か善継はよく知っている。ギアと同じく一時的に力を増幅させる()()()

 善継が下がると全身の刃が弾ける。まるで自身を爆弾にしたように、身体の表面に浮かぶ刃が一斉に散らばり網をバラバラにする。まるでリアクティブアーマーだ。


「そうきたか。なんて無茶苦茶を……」


 ふらりと立ち上がる石橋。全身の刃はすでに再生しており、傷一つ無い鋭利な肌を見せつけてくる。

 そうしている間にもパトカーが遠巻きに善継達を囲んでいく。正に袋の鼠、前回のように地中以外に逃げ道は無いだろう。

 しかしそれは無いと確信している。銀行強盗をしていた時はまだ理性が見えていたが、今は完全に正気を失っている。周囲全てに殺意を向けている以上、逃げる思考は持ち合わせていないはずだ。


「石橋さん、もうおしまいだ。俺の網から抜け出したのは驚いたが、もう逃げ場は無いぞ。こっから先、指名手配犯として生きていくつもりなのか」


 石橋は周りの警官を一瞥し、落胆したように肩を落とした。


「そうか……俺が子供の頃からずっと苦しんでいたのに、結局そっちに着くのか。俺のような醜い奴は、人間ではないって事か!」


 警官達は皆首を傾げる。当たり前だ、こんな荒唐無稽な話が理解できるはずがない。だが彼には全てが敵に、蔑み嘲笑う者に見えているのだ。


「薬がもったいないが、ここでまとめて殺してやる!」


 バルブを押し込みアンプルを二つ取り出す。


『Dominate』


「次は何だ?」


 善継は身構え警官達は銃を向ける。

 石橋はアンプルを投げる。地面に落ちたアンプルは割れ、中の黒い薬が散らばる。薬を捨てるなんて血迷ったか、もしくは証拠隠滅か。どちらにしろこの行動は不可解だ。

 その疑問はすぐに解決される。地面に散らばった薬は生き物のようにうねうねと動き、地面に模様を描いた。

 それは黒い魔法陣だ。二つ魔法陣は紫色の光を放ち何かを形作る。

 光の中から現れたモノ。それは善継もよく知っている存在だった。

 緑色の肌に小さな子供のような体型。醜く醜悪な小鬼、ゴブリン達だ。それも二十匹はいるだろう。


「ゴブリン? だとしても……」


 だがその姿は少し違う。まるで身体の内側から皮膚を突き破ったように、全身から刃物を生やしていたのだ。それに生気が感じられない。いつもなら残虐な笑みを浮かべているのに、目に光は無く不気味なまでに無表情。

 唸り声すら出さないそれは、機械のようだった。


「殺せぇ!」


 石橋の命令で一斉に動き出す。四方八方に走り、警官達に襲い掛かった。


「やっぱりか。真理!」


「わかってる!」


 負傷者の救護を行っていた真理も急いで飛び立つ。上空から両手の銃を乱射しゴブリンを撃ち抜いていく。勿論警官達も銃を抜き引き金を引く。

 しかし止まらない。頭を貫こうも少し怯むだけだ。生き物を攻撃しているとは思えない。無表情な顔もあり機械のようだった。

 ゴブリン達はボロボロになりながらも警官へと襲い掛かる。善継も蜘蛛の巣型のカッターを作り投げようと振り上げる。

 その瞬間、真っ赤な炎がゴブリンを包む。燃やすなんて生ぬるい。一瞬の内に蒸発してしまった。


「!?」


「まさか……」


 真理は炎が飛んで来た方を振り向く。炎と氷、二本の刀をもった少女。由紀が駆け寄って来る。


「お姉ちゃん大丈夫?」


「ユッキー? 学校は?」


 こんな平日のオフィス街にいるはずが無い。彼女はまだ学校のはずだ。


「早退した。伯……社長に呼ばれて。だから……」


 氷の刀を軽く振る。人間と同等の大きさの氷柱を飛ばし、ゴブリンを一撃で潰しバラバラにしてしまう。

 機械のように簡単に倒れないのなら、一撃で木っ端微塵にしてしまえば良い。勇者だからこそ可能な力技に石橋も怯み、釣られてゴブリンも動きが鈍る。


「よし。スパイダー、ここはあたしらがやる」


「頼む」


 由紀がいるなら問題無い。彼女なら羽虫を潰すように片付けるだろう。むしろ逮捕が目的の石橋の対応は難しい。


「さてと」


 逃げ道を塞ぐように、後退る石橋の前に立つ。


「そんなに、そんなに俺を苦しめたいのか! 俺がそんなに嫌いか!」


「違う」


 拳を握り構える。獲物を睨む蜘蛛がいる。悪意を狩る銀色の蜘蛛だ。


「俺は貴方を止める。その幻から、悪夢から救う。そして、罪を償わせる。これが俺のヒーローとしての仕事だ」


 風が吹いた。鋼鉄の糸をまとった拳が白い仮面をぶん殴る。拳から伝わる硬質な感触、鉄塊を殴ったような重さが身体を痺れさせる。

 命を奪う事だけが戦いじゃない。法の裁きを受けさせる事、それが今善継がやるべき戦いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 勇者(キチガイ)ではない、英雄(山ほど殺した人殺しの栄光)でもない。 守るため救うため、称賛も栄光も要らない。 それがヒーローなのだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ