34:重ねられないもの
翌日の午前、いつものように真理に呼ばれ善継は会社に訪れていた。以前言っていたお願いだろう。
その予想は当たっており、地下の研究部へと案内された。
そう、そこまでは予測通りだ。だが問題が一つある。何故か魔法少女へと変身させられたのだ。
「おい真理、これは何なんだ?」
こめかみに青筋を浮かべながら頬をヒクヒクと痙攣させる。普通なら憤怒の形相となっている所だが、魔法少女となった善継に威厳もへったくれもない。ただ可愛らしく不機嫌そうな少女でしかなかった。
善継の全身には電極が張り付けられ、頭には騒々しいヘッドギア、左手には外装を外した中身が剥き出しのスピリットギアが着けられている。当然そのギアもコードに繋げられていた。
実験動物か何かか、そう叫びたくなるのをぐっと堪える。ただ目の前でパソコンを一心不乱にいじる真理を睨むだけだ。
「真理?」
「ん……すまん。説明がまだだったな」
手を止め椅子から立ち上がる。
「今回善継にお願いしたいのは、複数枚のメダルの同時使用の実験だ」
「複数枚?」
善継には聞き覚えがある。ヒーローが完成した後に複数のメダルを同時に使用する試みがあったのだ。
勇者は複数の精霊を宿しているのなら、メダルも複数使えば勇者に近づくと考えられていた。しかし実験は失敗した。
「だけどその実験は失敗したんだろ? コスチュームが自爆したとか」
「そうさ。それ以来二つ以上のギアを同時に使用しようとすると、セーフティが入るようになってる」
再びキーボードを叩き始める。
「ヒーローは謂わば外付け、無理矢理精霊をくっ付けて力を使えるようにしただけだ。勇者の精霊が生身の心臓なら、ヒーローは人工心肺。更に勇者は心臓が二三個あるのが当たり前な生物……例えるならそんな感じだな」
「解るような、解らないような。学のない俺に難しい言葉を使わないでくれ」
「とりあえず複数枚のメダルの同時使用は不可能、それは知ってるだろ? それをどうにか可能にしようと思ってね」
真理はそう言いながら赤いメダルを取り出す。彼女の所有している蝙蝠のメダルだ。
「もしかしたらバイオメダルならできるかもしれない。勇者にも使える特殊な使用だ。他の精霊と上手くいければ……」
「勇者みたいに多くの精霊を抱えられるってか。だけど大丈夫なのかこれ」
善継が不安になるのも無理はない。今まで失敗し続けた実験、バイオメダルだって最近できたばかりの新技術だ。真理の事は信頼していても流石に不安だ。
そんな彼の心配とは裏腹に真理は妙に落ち着いている。
「大丈夫。セーフティは機能しているし、今回は連動実験だけだ。二枚のメダルで変身まではやらないよ。あくまで使えそうかどうかだ」
「わかったよ。手伝うって言った手前、今更断りはしないさ。だけどメダルは? てかそんな実験よく許可通ったな」
そう、ヒーローは一人一枚のメダルしか渡されない。メダル一枚につきヒーローが一人作れる都合上、複数のメダルを所持する事はヒーローの人数が確保できなくなってしまう。
ただでさえ危険かつ人手不足の現場だ。メダルを一人に集中させるのも問題となるだろう。
「やっぱり勇者への対抗手段に乏しいからな。フィルシステムだってギアを着けて変身させる必要がある」
「だからヒーロー本来の目的、地球製人造勇者を作るつもりか?」
「そうだ。善継、この前あたしらに言い寄ってきたネッチューバーは覚えているか?」
そう言われ一瞬考えるがすぐに思い出した。あの紅白頭は忘れはしない。
「そんなのいたな。そいつがどうかしたのか? またなんかやらかしたなら顧問弁護士がいるだろ」
「やらかしてはいないが、前回以上にヤバい事をやりかねない。なんせ勇者になったらしいからな」
「…………マジ?」
「動画が合成でなければね」
大きくため息をつく。
「いつまでも大金はたいて勇者に勇者を狩らせてはもたない。そもそも勇者だってリスキーだ。勇者と戦うなんて……ね」
彼女の言う通り、勇者にとって一番の天敵は勇者だ。身の危険を承知で依頼を受ける勇者は少ない。むしろ二三人に依頼し囲んで叩く必要もある。そのせいで勇者粛清には莫大な金が動いている。場合によっては金の代わりに人が……なんて話も聞いた。
だからこそ、ヒーローが勇者に対抗できるようになるのは多くの人々から支持されている。
「たしかに……魔物や勇者の被害は年々増えている。異世界人が召還を止めてくれれば良いんだが。まあ、そうなるとヒーローにも勇者と同等の力は必要かもしれないな」
「意外だな。過ぎた力は身を滅ぼす、とか言い出すかと思ってたんだが」
「その点は否定しない。だけど現実問題、力は必要だ」
頭に浮かぶのは先日の事。勇者、堤春人との戦いだ。
あの時は彼が間抜けだったから勝てた。何も考えず格好つける為にギアに手を出し、フィルシステムの餌食となった。もし引っ掛からなければ殺されていただろう。
今後同じような事が起こるかもしれない。そうなった時の為に強くならねばならない。
「暴力でないと抗えないものもある。その時に力がなければ、死ぬのは俺達だ。まっ、コントロールできるかはやってみないとわからんがな。協力する意思は変わらない」
「助かるよ。ほら」
何かを投げ渡す。受け取った小さなもの。手を開くとそこにあったのはメダルだった。
「メダル?」
蜂のメダルだ。ただ、スズメバチのような大柄で狂暴なものとは違い、かなり華奢な蜂だった。
アシナガバチか、ジガバチかと考えていたがある事に気付く。
「このメダル、どうやって持ってきた? 誰かのメダルじゃないだろうな」
「安心しろ。正規の手続きで所有者のいないやつを借りてきたもんだ。それと、ちゃんと善継と適合するメダルだ」
「そうか……」
善継のメダルは本来姉が使う予定だった。もし彼女が生きていたら、このメダルが相棒だったのかもしれない。そんな不自然な気持ちになる。
そうしていると真理は再びパソコンを弄り始める。
「じゃあ、とりあえずスピリットギアにセットしてくれ。ギアの反応や魔力を調べる。あたしの指示に従ってギアを操作してくれ」
「わかった」
実験に付き合う善継の声は明るかった。少しでも力になれるなら、ヒーロー達の為になるのなら。そう思うと嬉しくなった。




