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33:黒井家の夜

 そして同時刻の黒井家。二階にある由紀の部屋。

 部屋はこざっぱりとしており、年頃の少女にしては寂しさすら感じる。しかし机や棚とあちこちに写真が飾られていた。

 真理に似た小柄な女性と背の高い男性。その間に三人の少年少女が立っている。一人は小学生くらいの少女。もう一人は彼女より少しだけ年上らしき少女。そして二人よりも年上で高校生くらいの少年だ。

 誰の目にもわかる、平和な一家の写真だ。二人の少女の顔立ちから見て黒井家の写真だろう。

 家族の写真があるのは普通の事。そう、ごく普通の事だ。だが量が異常だ。一枚や二枚じゃない、机や本棚、壁のあちこちに飾られている。

 ある意味由紀らしい部屋だ。

 彼女はベッドに寝転びながらスマホを見ている。見ているのは今日の昼間の事、ウッドリザードの事だ。

 SNSや動画投稿サイトではその様子を撮影、投稿している者がいる。勿論それだけでなく、今日世界各地で起きた魔物とヒーローの戦いが投稿され、一種の娯楽となっているのだ。


「あっ、お姉ちゃんだ」


 動画は真理が止めを刺す所。除草剤をたっぷりと含んだ矢を構えた彼女を後ろから撮影している。

 矢の先には拘束された魔物が一匹。善継に捕らえられたウッドリザードがあばれていた。


「やっぱりお姉ちゃん可愛いなぁ。八ツ木さんも手際良いし……ん?」


 ふと動画に流れるコメントに目が行く。


 トドメだけとかダッセェ

 みうみうちゃんにおんぶ抱っこ

 相変わらずのザコ枠

 最弱魔法少女とかワロス


「…………」


 心の奥に炎が灯る。真理に対する心無いコメントが散在していた。

 確かに真理は本職が技術者なせいか戦闘力は低い。ギアの性能に頼っているのも事実だ。

 しかし比較対象がおかしいはず。十年は戦い続けている善継。力関係が破綻している勇者である由紀。この二人と比べて劣るのは当たり前だ。

 世間からはそんな事は知った事じゃない。叩ければそれで良かったのだ。

 だからこそふつふつと怒りが沸き上がる。殺意の炎が燃え、心が冷たく凍りつく。


「…………落ち着け私。感情のままに暴れたら他の勇者と同レベルだ」


 深呼吸をし自分を落ち着かせる。下手に噛み付けば周りに、特に伯父に迷惑がかかるからだ。

 こういう輩の対応は法務部に任せるのが適任。由紀は淡々とコメントをスクリーンショットに納めていく。


「恩知らずな人だね。ヒーローがいるから魔物に地球は支配されてないのに。こんな奴、魔物のエサになればいいんだ」


 ぶつぶつと呟きながらスマホをいじり続ける。芸能ニュース、他のヒーロー達の呟き、流行のスイーツ。目を滑らせていくととあるものに目が止まる。


「これ……」


 ふと見つけた一人の人物の呟き。そこに付属している動画のリンク。

 ページを開き動画を見る。何気ない、小さな興味から開いた動画。シークバーが進むと由紀の顔色が変わる。


「……!」


 ベッドから飛び起き駆け出す。そして部屋を出ると隣の部屋の扉を叩いた。


「お姉ちゃん、いる?」


 返事は無い。が、彼女が外出している話は聞いていない。確認も許可もとらず扉を開ける。

 部屋は正直汚かった。小難しい学術書の山。訳のわからないガラクタ。脱ぎ散らかされた服。思わずため息が出る。

 そんな部屋の奥でパソコンとにらめっこをするキャミソール一丁の小柄な女性が一人。真理は必死の形相でぶつぶつと呟いている。


「ダメだ、こんなんじゃ安全性は皆無だ。そもそも機能しないし。いっそ全部バイオメダルでやるか? いや、そんなの許可が出るのか?」


「お姉ちゃん!」


「ん? ああ由紀か。どうした? 宿題でわかんないとこでもあった?」


 由紀の声でようやく気付く。だが彼女の目は笑っていない。どこか疲れたような顔だった。


「ごめんね勝手に入って。実は見てもらいたいのがあるの」


「?」


 不自然そうにしている真理にスマホを渡した。由紀のスマホを受け取ると画面を見て顔をしかめる。

 それは動画投稿サイトのページ。とある投稿者のホーム画面だ。


「あー? クックルチャンネルって、あの時のか。紅白の変な髪型の」


「うん。で、問題は今日アップされた動画なの」


 よく見ると一時間程前に動画が投稿されている。そしてその一つ前は先日真理達に突撃してきた時のものだ。どうやら数日間何も活動をしていなかったようだ。

 画面ではあの紅白頭がヘラヘラと笑いながら手を振っている。


『どうもー。クックルチャンネルのドゥドゥでーす! ごめんねみんな、最近投稿や配信もできなくて』


 見ているだけでイライラする。謝罪にも心がこもっておらずふざけているようだ。


『実は俺、なんと…………』


 口でドラムロールをしている姿が余計に腹立たしい。しかしそんな苛立ちも一瞬で吹き飛んでしまった。


『勇者になっちゃいましたー!』


「ハァ!?」


 悲鳴にもにた声に由紀も思わず驚く。だが驚いているのは真理の方だ。

 画面の中のドゥドゥは見せつけるように手から炎を出している。


『これからは魔物退治とかも投稿していこうかなって思ってるから。みんな、楽しみにしてくれよな!』


「……こんな承認欲求の塊みたいなのが勇者? 絶対トラブルが起きるだろ」


 動画の中身も頭に入らない。背もたれに寄りかかりぐったりとしている。

 勿論勇者がこんな事をしているのは彼が初めてではない。魔物退治を見世物にしているだけなら無害な方だ。だが現在進行形でアイドルや他の配信者を口説く為に活動している勇者もいる。

 先日の事もありこの男に対する評価は最底辺。嫌な予感しかしない。


「やっぱり……必要だよな」


「?」


 そう呟きながら真理はパソコンの画面を見る。そこには外装のはずされたスピリットギア、その設計図が映し出されていた。

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