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30:お嬢様の思惑

 会社の屋上に到着した善継達。この後も報告書と仕事は残っているが、善継は一人急いで下に向かった。

 エレベーターに乗り会社の入り口へ。少し苛立ったような足取りで外へと出る。

 いた。ピッシリと背筋を伸ばし直立する初老の男性。青山はニコニコとした笑顔、おそらく作り笑いのままそこにいた。

 おそらく待っていたのだろう。先程飛んでいた時も確かに目が合ったのだ。


「おや、八ツ木様。お疲れ様です、ウッドリザード退治があったようで」


「知ってただろ。それにみうみうを待ち構えてたんじゃないか?」


「半分正解ですな。確かに彼女を待っていましたが、貴方の事も待っていたのです。……いや、違いますね」


 笑みが消え、そっと善継の隣に立ち囁く。


「二人を待っていました。ですので……こう呼ぶべきですかな、魔法少女みうみう様」


「…………」


 驚いて言葉を失う。何故、どうしてと疑問を感じながらも理性が平常心を保たせる。

 どうにか表情に出さぬよう取り繕いながら確認する。


「どうして俺だと? 体格も何もかも違うだろ」


「この世には魔法と言う物理法則を無視する現象があります。そう、精霊の力です。それなら貴方の姿を幼い少女に変えるのも可能でしょう」


「成る程。だがそれだけでは俺以外の人間にも当てはまるぞ」


「そこでみうみう様の動きです。これでも人の動きには敏感でしてね。同じ流派、戦闘スタイルと言われれば納得しますが……それにしては同じなんですよ。足運びも反応速度も。こればかりは彼女が貴方に師事したと言われても違和感がある」


 善継は何も言えない。それよりも玄徳にどう報告しようか悩んでいた。

 そんな様子を察してか、青山は微笑む。


「……まあ、そちらにも都合があるでしょう。私は答えを聞きません」


「助かる」


 ふと肩の力が下りる。だがバレたのは痛い。今後も同じように察する者が出るかもしれない、そう思うと不安になる。


「とりあえず話をしよう。今日はお嬢様がいないようだし、彼女に聞かれたくない内容なのか?」


「ええ。お願いがありまして」


 真っ直ぐとした鋭い目。何か思い詰めたような、心苦しそうな表情だ。


「お願い?」


「はい。お嬢様を不採用にしていただきたいのです」


 驚いた。予測と真逆の事だったからだ。

 いや、だからこそ一人で来たのだろう。彼女はオルタナティブに入るのを望んでいるのだから。


「危険だから……か?」


「はい。お嬢様は血生臭い世界に立つべきではありません」


 確かにと納得する。あんなお金持ちのお嬢様がいるような世界じゃない。むしろ玄徳のように運営側の人間だ。


「似合わないのは納得だ。それに真理から聞いたが、彼女は魔物憎さにヒーローやろうってタイプだろ? 俺もそれはちょっとな」


「そうです……が、それだけではありません。お嬢様の本当のターゲットは勇者なのです」


 あり得る話だ。彼女のような金持ちお嬢様なんて勇者からすれば寄生先にちょうど良い。本人でなくても友人が勇者に……なんて事も考えられる。

 心の中でため息をつく。思い出したのは先日のロックドラゴンの事件。明美の通う学校が勇者に狙われた事だ。


「よくある話だな。勇者に恨みがある人間なんて珍しくない。が、なら尚更止めたいだろう。勇者に挑むなんて普通なら自殺行為だ」


「その通り。いくら魔法少女、クロスギアが現行最強スペックのヒーローであろうと力の差は大きい。フィルシステムも発動させるのが困難ですからね」


「フィルシステムも知っていたか。ならお……みうみうが勝った理由もわかってんだろ」


 おそらく現役時代の事務所から聞いたのだろう。こちらの正体にも感付いたのだ、今更驚きはしない。


「勿論です。口八丁で自分から変身するよう誘導したってとこでしょう。ですが誰もがそんな間抜けではない。システムを知らずとも、もしギアに爆弾が仕掛けられてたらと疑われては使い物にならない」


「変身させないといけないのが一番のネックだからな」


「……まあ、そんな所で私もお嬢様のヒーロー活動には快く思っておりません」


 話を戻すように咳払い。少しだけ声のトーンが落ちる。何か言いにくそうな、周りを気にしているように見える。


「まだ何かあるのか?」


「実は……お嬢様の友人が魔物に襲われた事件、黒井姉妹の方から聞いていらっしゃるでしょう。どうやらその事件、勇者が手引きしたらしいのです」


「勇者が?」


 奇妙だ。元々魔物は勇者から逃げてきた存在。堤春人のような事件は魔人のような知性がある存在が利用している、かなりレアなケースだ。


「私も未確認なのですが、どうやらその勇者……魔物使いの力を持っているそうです。まるでゲームのように魔物を強化、使役しているとか」


「魔物使い? なんだそりゃ。尚更あり得ないだろ」


 精霊と魔物は敵対している。精霊の力を使う勇者がそんな魔物に力を与えるなんて考えられない。

 ゲームでは確かにそういったものは存在する。しかしここは現実だ。生き物を洗脳するのは簡単じゃない。モンスターテイマーなんていない。


「私も信じられません。ですがお嬢様が嘘を言っているとも思えないのです。なら尚更危険だと私の勘が言っております」


「…………わかった。俺には人事権は無い、社長に口添えはする。期待はしないでくれよ?」


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げる青山。彼の姿が少しだけ痛ましい。

 善継は会社のビルを見上げた。何か嫌な予感がする。そう善継の勘も言っていた。

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